アライプロバンスに社名変更・業種転換
1903(明治36)年に創業した新井鉄工所は、主に石油・天然ガスの掘削機器の製造・輸出などの金属加工業を続けてきたが、事業の斜陽化に伴い、2016年に製造事業から撤退した。
同社は、その後、東京の城東地区に所有していた広大な土地を生かした総合不動産業へと大きく舵を切った。2020年7月には社名を現社名のアライプロバンス(本社=東京都墨田区)に変更した。「プロバンス」は、資産を表すプロパティーと前進を表すアドバンスから名付けている。
日本生産性本部は、製造業時代から業種転換、新事業立ち上げに関わり、定例的に経営課題を設定・共有し、課題ごとに各専門家の力を借りながら、会社と共に課題解決を行っている。
また、不動産総合事業の立ち上げ後は、役員・社員の人材育成のために、公開講座の受講を通じて、他社と切磋琢磨する場も提供している。

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2022年度のグッドデザイン賞 「アライプロバンス浦安」
総合不動産業となった同社の事業の柱は物流施設建設だ。2021年10月には、敷地面積1万4800平方㍍の浦安工場跡地を生かし、「アライプロバンス浦安」を建設した。首都圏全域へのスピーディーな配送を可能とする浦安市という立地を生かし、地上4階建ての大型物流倉庫を開発した。「アライプロバンス浦安」は2022年度のグッドデザイン賞を受賞した。

さらに、今年8月には、江戸川工場跡地(江戸川区東葛西)に、敷地面積3万5039平方㍍、延床面積8万7122平方㍍と、物流施設としては都内最大級の「アライプロバンス葛西」(地上5階建て)を完成させた。
旧江戸川を見渡す屋上テラスやコンビニエンスストア、開放的なカフェテリアなど、施設の利用者がリフレッシュできる多彩な共用空間を設けている。旧江戸川の親水を生かし、地域に開かれたアート庭園や緑道を設け、働く人の憩いの場を創出している。駐車場も多く備え、立地の良さを雇用確保にもつなげている。
また、「HYPERSPACE/LOGISTICS」をコンセプトに「小区画分割」や「多用途」に対応していることも特徴だ。物流用途としてだけでなくショールームやスタジオ、作業場などの幅広いニーズにも応えていく。

総合不動産業へ
現在では、物流施設建設の他、マンション開発運用、オフィスビル開発運用、不動産売買などの事業を行っている。
マンション開発運用(クオーレプロバンスシリーズ)では、独自のネットワークを通じて価値ある不動産物件情報から土地を取得し、賃貸マンション・分譲マンションを開発している。
オフィスビル開発運用(ビザプロバンスシリーズ)では、エリア・立地を厳選し、安定した収益の見込めるオフィスや商業ビルを開発している。
不動産売買では、既存建物(オフィスビル・賃貸マンション・店舗等)を取得し、デザイン性、機能性、収益性を高めることで付加価値を創出し、物件を再生した上で、投資家や事業法人に提供している。
現在は、2025年度からの中期経営計画策定作業を行っており、変化する市場環境の中で、「アライズム」(当事者意識・目的意識・問題意識、スピード感、誠心誠意・本音)を重視する経営理念を実現する経営計画について議論している。
同社は、城東エリアを中心として、国内屈指の総合不動産カンパニーを目指している。今後も、「アライ」という自社ブランドにこだわり、地域に根付きながら独自性を追求し、事業を幅広く展開していきたいとしている。

事業承継とは、経営権や株式、技術などの資産を承継することだけではなく、これまでの歴史と想いがある人と組織のすべてを承継することを指します。
新井太郎・アライプロバンス代表取締役社長の話

100年を超える経営の灯を絶やせないという強い思いから第二創業の道を選び、総合不動産業に進出した。再出発のきっかけとなったのが現在の事業の柱である物流不動産だ。「アライ」というブランドを掲げて自前で開発から運営までできること、23区内の広大な土地を分割せずに一体開発できること、この二つの理念と、好立地の工場跡地を最も生かせる用途は何かを考えた際に、大型物流施設の開発運営という最適解にたどり着いた。
昨年11月に社長に就任した際には、これは稲盛和夫さんの言葉だが、「全社員の物心両面の幸福を追求して実現する」と宣言した。社員には人生の時間の多くを会社で過ごしてもらうのだから、会社で過ごす時間は有意義なものでなければならない。広告宣伝やブランディングにしても、他社にない独自性を追求しながら、社員が面白い仕事をできる会社、それをしっかり評価できる会社にしたいと伝えた。今後は、物流不動産以外の、マンションやオフィスビル開発運用、土地賃貸運用、不動産売買、ホテル、データセンターなど、様々な領域に取り組んでいきたい。23区内での小型物流施設の建設なども手掛けたい。今年、名古屋で3棟ビルを購入した。エリアも関東に限らず、全国に幅広く展開していく。
自分で徹底的に考え抜いた
当社が業態転換、新事業立ち上げの成功例だとしたら、成功した要因は、自分で徹底的に考え抜いたことだと思う。人の意見を聞くのはいいが、人に頼ってはいけない。強い意志を持って、最終的には自分で考えて決断することが重要だ。
信太コンサルタントには、私みたいな生意気な人間に付き合い、また、ややこしいコンサルティングテーマに耐えていただいて感謝しかない。様々な知識や知見を提供してくれるのはもちろん有難いが、それ以上に、経営者の聞き手として、コーチングや傾聴を行い、私の考えていることを整理してくれることがすばらしい。私が事業の構想などを思いつくままに話しても、考えていることをしっかりと経営のフレームワークに落とし込んでくれるので、自分の思考の整理ができて、大変助かっている。
信太哲・日本生産性本部主席経営コンサルタントの話
老舗企業の業態転換
アライプロバンスは、時代の変化を先読みして行動する老舗企業の強み、素早い意思決定ができるオーナー企業の強みを持っている。
また、経営者が目指す姿を高く設定し、経営理念や中期経営計画で社内外に明文化・共有化し、着実に行動・実現している。自社で足りない分野は、上手に各種専門家を活用している。
チャレンジ、事業の成長を志向しているが、一方でリスクを想定し、許容範囲設定・対策をとるなど、守りの経営も行っている。
各プロジェクトが進み、一緒に働く人材が増えてきた現在、組織強化が次の大きなテーマである。経営理念や中期経営計画を共有し、共に活動していきたい。

資格:中小企業診断士、キャリアコンサルタント
経歴:一橋大学法学部卒業後、住友銀行(現三井住友銀行)にて自動車ほか組立加工業界のクレジットアナリストとして信用リスク審査、企業診断業務に従事。日本生本部経営コンサルタントとして…

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生産性新聞 2024年10月25日号:「変革の現場2024年度第2回」掲載分
登場人物の所属・役職は新聞掲載時のものです。