「変わらない」日本企業を変えるには?
日本企業はなかなか変わらない。このような言説は、日本で働く実業家にとって、ある種の共通理解となっているのではないでしょうか。筆者の個人的な経験ではありますが、「日本企業はなかなか変わらない」という言説を、この20年間常に耳にしてきました。
もちろん、変わることが常に良いこととは限りませんが、変わろうとしても変われないことは問題です。
「現状を変えたい」という熱い思いを持った実務家の方を応援するために、「組織を変える」、すなわち「組織変革」について、現代的なトピックを中心に、様々な角度から論じていきたいと思います。

DXの目的は企業に変革をもたらすこと
近年日本で注目されている「組織変革」と言えば「DX(デジタル・トランスフォーメーション)」でしょう。若干旬が過ぎた感もある言葉ではありますが、もう数年はこの言葉は使われると思います。「DX」の定義は様々ありますが、総じていえば、「デジタル技術を活用することで何らかの変革をもたらすこと」を指しています。
デジタル化はあくまでも手段であり、企業を変革することがDXの目的です。デジタル技術を用いて、現状の仕事を効率化するにしても、現状の仕事のやり方を大きく変えるにしても、新しいビジネスモデルを作り上げるにしても、組織は何らかの形で変化します。
ゆえにDXも、基本的には組織変革の一種として捉えられます。学術的に見ても、DX(海外ではDTと呼ばれることも多い)を組織変革の一種として位置づけている研究は多数存在します。DXを考える際、「デジタル」に引きずられすぎず、「トランスフォーメーション」であることを忘れてはいけないということです。

組織変革にとって重要な3つのこと―「方向性」×「コミュニケーション」×「仕組み」
DXが組織変革の一種だとするならば、DXを成功させるためには、「組織変革の王道」を進むことが第一の答えになります。どのように組織を変革すべきかについては、経営学でも、または実務家の議論でも、多数の蓄積があります。
筆者が所属する東京大学ものづくり経営研究センターでは、ものづくり経営研究コンソーシアムという産学連携の研究会を20年以上主宰していますが、そこでの知見と、欧米の既存研究を合わせてみてみると、組織変革には三つが重要であると考えられます。
1つ目は「方向性」です。どのような変革を行うのか、変革の結果何を目指すのかが明確でなければうまくいきません。
2つ目は「コミュニケーション」です。リーダー、またはその薫陶を受けたミドルが、フォロワーに変革の必要性などを腹落ちさせなければ、フォロワーはついていきません。
3つ目は「仕組み」です。この仕組みとは、変革を進めるための組織体制、教育体制、評価体制など、変革を進めるための具体的な体制のことです。この「方向性」×「コミュニケーション」×「仕組み」のどれか一つでも欠けたら、組織変革は難しい、と考えています。

自社ビジネスのあり方を見直し、次の戦略を深く多面的に考えるリーダーの養成
「組織変革の王道」から考える「変わらない」日本企業がもつ悩み
例えばDXで考えてみます。何のためにDXをするのかの方向性が示されていないと、デジタルを入れることが目的となってしまいます。DXの必要性をちゃんとメンバーに伝えられていなければ、メンバーはDXに対して消極的になります。
DXをやるぞと言いながら、今までの仕事のやり方をしている人が評価されたり、十分な教育機会がなかったりすれば、DXは進みません。なお、巷にあるDX成功のステップのようなウェブサイトを見ても、大体同じような内容が書かれており、この3つというのは大筋間違ってはいないのかなと思っています。偉そうで恐縮ですが、仮にこの3つを「組織変革の王道」とします。

しかしここで、冒頭の議論に戻ります。日本企業はなかなか変われないという話です。なぜ変わらないかを考える際、もっとも単純なのは「組織変革の王道」を知らないことです。しかし、筆者の経験上、そういう方は必ずしも多くはありません。むしろ「王道のとおりにできない」という悩みを抱えていらっしゃる方が多いです。その方の悩みは「王道は理解しているが具体的なやり方が分からない」か、「そもそも組織(経営)がぐちゃぐちゃで王道を選択できない」に分かれます。前者に関しては、成功している個別事例を参考に、そこからヒントを得て自社に応用し、その中で試行錯誤を繰り返していくのがよさそうです。そのため、様々な情報交換の場に参加することが大事かと存じます。後者については、何がボトルネックなのかによって、進むべき方向性が変わってくると思います。場合によっては「お手上げ」ということもあります。
では、皆様の会社はいかがでしょうか?現状変革がうまくいっていない場合、それは「王道」をご存じないからでしょうか?それとも「王道」の具体的なやり方が分からないからでしょうか?それとも「王道を選択できない」からでしょうか?もしくは「そもそも王道が間違っている」のでしょうか?今一度ご自身の状況をご確認いただけると幸いです。
本連載では、東京大学大学院の大木清弘准教授(2017年度から2024年度まで「経営戦略コース」のグループ指導講師を担当)に執筆いただき、生産性新聞に掲載された記事です。
生産性新聞2024年4月15日号:連載「組織変革の羅針盤」掲載分

経歴:
2007年東京大学経済学部卒業。08年同大学大学院経済学研究科修士課程修了。11年同大学大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。12年同大学より博士(経済学)。関西大学商学部助教、東京大学大学院経済学研究科講師を経て、20年より現職。専門は国際経営論、国際人的資源管理論。2009年国際ビジネス研究学会優秀論文賞、15年国際ビジネス研究学会学会賞。著書に『コア・テキスト国際経営』(新世社)など。