「Gemba」~価値が生み出される場所。問題解決や改善活動の出発点となる。 日本企業の強みの象徴であり国際語にもなった現場。現場の真価とは、単に決められたことを効率よく実施するにとどまらず、計画段階では想定されていなかったことを、現場での試行錯誤を繰り返す中で生み出していく創発性にある。
今回の連載ではこのような現場を支えるプロフェッショナルに焦点を当て、どのような特性があるのか、そしてどのように従業員のチカラを伸ばし、引き出してプロフェッショナルに育てあげるのか、その手法について明らかにしていきたい。

ヤマトコンタクトサービス・コールセンター 電話対応業務担う橋本さん
1回目は宅急便でおなじみのヤマトグループでコールセンターを中心に非対面接客を主な業務として巨大な物流システムを支えるヤマトコンタクトサービスの現場のプロフェッショナルだ。
コールセンターでヤマト運輸の電話対応業務を担う橋本さん。日々、100件ほどお客様からのお問い合わせや依頼に対応している。お客様からのお褒めの言葉があった社員を表彰する制度を同社では導入しているが、橋本さんはそれを受賞している。どのように日々の仕事のなかで価値を生み出しているのだろう。

組織開発とは個人と組織、組織と組織の関係性を高めることにより、いきいきとした組織を実現し、「創発」※によるチームパフォーマンスの向上をもたらす取り組みです。組織開発について
構図1対1だけでなく 頼り頼られる関係性重要
「お客様と私という1対1の構図に見えるかもしれませんが、私たちの仕事は、配送スタッフや内勤スタッフなど、本当に多くの人々との連携があって初めて成り立っています。お互いに『慢心せず、過信もせず』、困っている時には積極的に声をかけ、また自分も助けを求めることを躊躇しないよう、『頼り頼られる』関係性を築くためのコミュニケーションを日々心がけています。このチームワークがあるからこそ、お客様に最高のサービスを提供できていると実感しています」。
コールセンター内に加えて部門を超えた連携。同社のビジョンである「つながる」は、顧客の様々なニーズに応えるための生命線だ。そのために互助の関係構築に余念がない。何年経験を積もうとも抱え込まずにすぐに助けを求められる姿勢は、自分の力を頼りに孤軍奮闘するステレオタイプのプロフェッショナルの姿とは対照的だ。

慣れが一番怖く
お客様との接点においては「慣れが怖いため一本たりとも同じ電話はない」とキャリアを重ねても常に新鮮な気持ちで臨む。自律心ともいうべきこの特性は、たとえ結果がすぐにでない取り組みでもコツコツと継続するといった具合に様々な場面で現れる。大きなホームランをねらうよりきっちりとバットを振り続けること。一見すると地味だが、高度化したシステムにおいて高い品質を維持するにはムラをなくすことが大切であり、そしてより良い結果を生み出すためには地道な工夫・改善が求められる。橋本さんの考え方や行動は日々のオペレーションを高い水準で遂行するという点で、一企業の枠を超えた普遍的なモデルと言えそうだ。

これからについては「AIによる自動応答の範囲が今後さらに広がっていく中で、これからのオペレーターには『人間だからこそできる気配りの接客』がより一層求められます。お客様の感情に寄り添い、画一的な対応では得られない安心感や納得感を提供できるよう、全国の拠点にいる仲間たちと意識を共有し、具体的な応対事例を共有しながら取り組んでいきたい。最終的には、どのオペレーターが対応しても『ヤマト運輸の応対品質は素晴らしい』と感じていただけるよう、担当者によって品質が異なることのない均一で質の高いサービスを提供していくことが目標」と全社視点で理想の姿を見据える。
では、会社はプロフェッショナルをどのように育てているのだろうか。

メンバー間の関係性を強化する!
自己開示による相互理解を促進したのちに、共働ワークにより連帯感を醸成します。
「行動」でなく「考動」
まず、育成にあたって大切にしていることは「自身の成長を試みる姿勢を育むよう『自ら主体的に動く精神』を成長させること」だという。同社では「行動」ではなく「考動」という言葉を使う。自ら考え、行動することに重きを置いているからだ。とくに会社のビジョンの「つながる」ことを実現するために、仲間のことを想い、一緒に働きたいと思われる社員となるために仲間をどれだけ思いやる考動ができるか、価値観の浸透を重視している。同社にとって背骨となるこれらの学びは入社時や適時実施される理念研修で取り扱われている。
業務遂行レベルの高い社員に共通するコンピテンシーとして、同社では
- 主体性
- コミュニケーション能力
- 課題解決能力
- 高い学習意欲
- 自己管理能力
- 状況の客観的分析と適切な判断をする能力、
これら6つを挙げる。①主体性を土台にしながら他の能力を日々の業務や勉強会の中で他者からのフィードバックをもらいながら自ら高めていく。ヤマトグループは卓越した理念経営で知られているが同社も同様に理念の浸透を人材の育成に上手につなげている。
会社の価値観と働く社員の価値観が同じ方向を向き、主体的な考動が生み出される。それがよい仕事となり承認されやりがいを感じ、次の考動と成長につながっていく。精巧な戦略があった。(3回連載)
執筆者:日本生産性本部 コンサルティング部 人材・組織開発コンサルタント 栗林裕也
生産性新聞2025年8月25日号:「現場のプロフェッショナル第1回」掲載分

有価証券報告書で人的資本を含む非財務情報の開示が義務化され、人的資本経営の重要性が日々高まっています。一方で、人的資本経営の観点から考えたときに開示はゴールではなく、「何を・何のために・どう開示するか」の議論を深め、

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