現状に甘んずることなく~管理不動産にLPガス配送の志村さん
価値が生みだされる場所であり、問題解決や改善活動の出発点となる現場。その現場のプロフェッショナルにはどのような特性があり、どのように育成するのだろうか。
今回のプロフェッショナルは生活総合支援企業の大手である大東建託グループで、管理不動産にLPガスを届けるガスパルの志村孝文さんだ。志村さんはこの道25年の大ベテラン。ガスを決して切らすことがないよう担当する物件1つひとつで、いつ頃なくなりそうなのかを予測して毎日LPガスを届ける。

「ガスを満タンに補填すると1本あたり85~90㌔になります。それを1日に80から100本ほど交換していきます」。50本が標準的な配送員の取り扱い本数なので志村さんは2倍近い。どうしてそのようなことが可能なのだろうか。「新しいエリアを頼まれたときに否定せずに引き受け続けてきたからです。まずはやってみる、そしてやり方を考える。その結果ですね」とさらりと答える。できない理由ではなく、どうしたらできるかを考える。自分で安易に限界を設けない。しかし、それは決して向こう見ずな安請け合いではない。「どうしても1日に作業できる件数は限られてくるので作業スピードを意識するとともに、効率よく回るルートを常に考えています。これまでのルートを是とするのではなくもっと良いルートはないかといつも探求しています」。どんなに高水準の仕事をしようとも現状に甘んじることなくアップデートをし続ける。

組織開発とは個人と組織、組織と組織の関係性を高めることにより、いきいきとした組織を実現し、「創発」によるチームパフォーマンスの向上をもたらす取り組みです。組織開発について
「先保後利」経営理念に
ガスパルの経営理念の中には「先保後利」という言葉がある。この言葉に込められているのは「保安」(お客様の安全)を最優先に考え、最高の保安とサービスを提供することで、利益は後からついてくるという考え方だ。配送員には安全に交換作業をこなすことが何より求められるわけだが、作業員ではない。あくまでもサービスの提供員なのだ。したがって管理している不動産のお客様を訪問するときは何かお困りごとがないか確認するなど心を砕く。「挨拶や身だしなみは当然のこと、お客様との関係構築を意識しています」。誠実な対応がお客様の信頼につながり、新しい物件を任されることもあるという。接客においても志村さんの高いサービスレベルは社内で一目置かれている。
しかし、サービスと効率は両立するのだろうか。「お客様のことを第一に考えますので、単に件数を多く回れればよいということではないと思います。お客様が喜んでくださってこその我々の仕事なので」。経営理念が判断の基準として機能し、1人ひとりの行動に反映されていく。理想的な組織ガバナンスと言えよう。
これからについては「LPガスは古いエネルギーと思われています。でも、仮設住宅には必ず設置されている。つまり災害に強いんです。しかし若い人の成り手がいない。しっかりと継承していきたいんですけどね」。「私は約3000室、人数にして8000人ほどのお客様の生活インフラを支えています。これからもあって当たり前を守り続けていきたいです」。言葉から自負心と責任感がにじむ。 次に志村さんのようなプロフェッショナルを会社はどう育成しているのか見ていこう。

メンバー間の関係性を強化する!
自己開示による相互理解を促進したのちに、共働ワークにより連帯感を醸成します。
「ガスパルクレド」制定
まず、サービス提供者としての意識と行動について。同社では皆が目指す行動指針として「ガスパルクレド」を制定している。そのうえで職場ごとに「カタリバ」と呼ぶ話し合いの場を定期的に設けて浸透を図っている。カタリバでは日々の業務が作業にならぬよう、自分たちが取り組んでいる仕事にどのような意味があるのかを理念やクレドと結びつけながら言葉にする。加えてお客様をはじめとしたステークホルダーからの声を共有し、自分たちの仕事がどのような貢献につながっているのかを改めて確かめるのだという。
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これらの取り組みは2022年には、第12回「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞で審査委員会特別賞を受賞するなど社外からも評価されている。
保安業務の教育体系も充実している。6フェーズに区分し、細かく定められた基準を一つずつクリアしないと現場に赴くことができない。ガス業界経験者は3カ月、未経験者は入社してから半年間はお客様を訪問することなくみっちり教育を受けるという。
ハイパフォーマーとは
最後に、志村さんのようなハイパフォーマーに共通するのはどのような点があるのかを確認しておこう。同社人事本部の小澤優介氏によると以下の3点だという。
①素直さ―教える側が教えたくなる態度であり、教えられたことを素直に吸収できる。
②一歩先を考える―どうしたらより良くなるかを突き詰めて考えることができる。
③自己効力感が高い―できないではなくどうしたらできるかという思考をとる
執筆者:日本生産性本部 コンサルティング部 人材・組織開発コンサルタント 栗林裕也
生産性新聞2025年10月15日号:「現場のプロフェッショナル第2回」掲載分

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