日本生産性本部は2026年1月23日、「春闘セミナー2026~今次労使交渉をめぐる課題と展望~」を都内で開催した。セミナーの前半では、2026年春季労使交渉をめぐるテーマや課題について、有識者が講演した。
賃上げノルム確立の出発点に~連合・芳野会長が交渉方針:5%以上の賃上げ継続を
セミナーの冒頭、連合(日本労働組合総連合会)会長の芳野友子氏(日本生産性本部副会長)が「春季労使交渉への連合の主張、交渉方針」と題し、講演した(=写真)。芳野氏は「2026春季生活闘争は、日本全体の実質賃金を1%上昇軌道に乗せ、賃上げノルムを確立できるかどうかの正念場と位置付けている」と述べた。

2026春闘のスローガンは「こだわろう!くらしの向上ひろげよう!仲間の輪」。スローガンに込めた思いは、「みんなで実質賃金を上昇軌道に乗せ、これからの賃上げノルムとすること。そして、労働組合に集う仲間の輪を社会に広げていくこと」だという。
芳野氏は「このスローガンのもと、中小企業を含め、5%以上の賃上げと格差是正にこだわって取り組みたい」と意欲を表明した。この後、2026年連合白書に基づき、その「視点と考え方」について説明した。
連合は2022年から、「未来づくり春闘」を掲げ、「人への投資」を起点として、経済の好循環を力強く回していくことを目指してきた。2023春闘では四半世紀にわたり2%近傍で推移してきた賃上げの流れを変える転換点をつくり、2024、2025春闘では2年連続で5%台の賃上げを実現した。
しかし、日本全体の実質賃金は連合の目指す1%以上の上昇軌道に乗っていない。芳野氏は「2026年は賃上げノルムをつくるスタートラインにすべきだ。政府はすでに2%の物価目標を掲げており、労使は5%以上の賃上げを続けていくことが肝要である」とした。
また、中期的に分厚い中間層の復活と働く貧困層の解消を目指し、分配構造の転換と格差是正に取り組む。30年にわたる株主重視、内部留保積み増し、人件費抑制の分配構造から転換を図り、生産性運動三原則の今日的意義にもとづき、労働者への公正な分配を求めていく。さらに、ジェンダー平等・多様性の推進や運動の両輪としての「政策・制度実現の取り組み」を進めることの重要性を指摘した。 芳野氏は「1月から2月にかけて、地方版政労使会議が開催される。すべての人が豊かさを実感できるように、日本が世界に追いつくためには、私たちのマインドも変えていかなくてはならない。今こそ、自分の賃金がこれからも上がると、みんなが信じ、実現に向けて知恵を出し合い、行動すべき時ではないか」と呼び掛けた。
「健全なインフレ経済」移行が必要~格差是正し、分厚い中間階層の復活を
続いて、法政大学大学院イノベーション・マネジメント研究科教授の山田久氏が「2026年日本経済の展望と労使の課題」と題して講演した(=写真)。
山田氏は「すでに安全保障を効率性に優先する地経学時代が始まっており、国内労働力の構造的不足により、コスト高経済へ移行している。企業はコスト削減よりも売上増を目指す経営が不可欠だ」と指摘した。

そのうえで「健全なインフレ経済」に移行し、頑強な経済社会の基盤となる「分厚い中間階層」を復活させることが必要になるとの考えを示した。具体的には、望ましい賃上げ率として、定期昇給分と望ましいインフレ率、生産性向上トレンドを合わせて5%の賃上げを継続することが必要であるとした。
「5%賃上げ」の定着は、実質賃金1%成長を伴う「健全なインフレ経済」に移行するための必要条件であり、健全なインフレ経済の定着が事業構造転換を促し、実質賃金1%成長を可能にするという。一方で、賃上げが不十分な場合は実質賃金低迷によるコスト高の下でスタグフレーションが長期化する恐れがあると警告した。
また、賃金格差の是正には、規模別・男女別・年齢別の賃上げのすそ野を拡大することが必要になる。規模別の賃金格差是正の鍵は中小企業の収益性の向上であり、価格転嫁を進めるため、「取適法(中小受託取引適正化法)」の運用の徹底や適用範囲の拡大、価格協議支援体制の整備などが必要とした。
男女別・年齢別賃金格差の是正には、106万円・130万円の壁の解消、在職老齢年金の一段の見直しなど、就業を阻害する制度の見直しやダイバーシティ経営の促進、残業規制の強化と労働者主体の柔軟化をセットで進めるなど労働時間制度改革が求められるとした。 さらに、労働力不足に対応するためには現場発DXが欠かせない。生産性向上にはAIなど新技術を積極的に導入することが重要になるからだ。単に省力化のために導入することにとどまらず、スキル転換を伴うDXを進めるには、人と技術の融合を追求するための労使間のコミュニケーション(協議)が重要になると指摘した。
好循環実現に向けて発想を転換~ウェルビーイングと生産性の向上両立
その後、早稲田大学教育・総合科学学術院教育学部教授で早稲田大学総合研究機構ウェルビーイング&プロダクティビティ研究所所長の黒田祥子氏が「ウェルビーイング社会・働き方と生産性について、労使が話し合うべきポイント」と題して講演した(=写真)。

「もっと働きたい人のやる気を阻害する」「国力の低下をもたらす」などを理由に、労働時間の上限規制を見直すべきと主張する意見がある。これに対し、黒田氏は「日本の働き方改革を巡る議論は労働時間の長さに議論が集中しすぎている。総量規制のその先の働き方を考える時期にきている」と指摘する。
労働時間の長さを規制する働き方改革をフェーズ1とすれば、労働者のウェルビーイングと生産性向上の同時実現を目指す「働き方改革フェーズ2」に入るべきだという考え方だ。黒田氏は「労働者のウェルビーイングの向上を通じて生産性向上の同時実現が可能となるような労働環境の整備を、労使で検討していくことが必要だ」との考えを示した。
そのためには、満足度調査やエンゲージメント調査、パルスサーベイなど企業に結果の開示を求め、実態を把握することが重要となる。そのうえで、優先順位を決め、改善することで労使双方にどのようなメリットがあるか想定して交渉する。
実際の交渉では、人的資本蓄積につながる解決策や制度の活用、新たな視点を加えた健康管理など、様々な工夫やアイデアを取り入れた交渉にする。その結果、導入した対策の効果を評価し、次の実態把握へと好循環のサイクルを回す。
これまでは、長時間働かないと利益が出ないと考え、心身が疲れ、短時間でアウトプットが出せず残業し、休日も疲れてリカバリーできず、働きがいも学ぶ意欲もわかず、高付加価値を創出できないという悪循環を繰り返しがちだった。 黒田氏は「働き方改革の規制緩和で過当競争が再開されれば同じことの繰り返しだ。2019年の労基法改正は一定の効果があったが、仕事の楽しさを感じられるところまではいかない。悪循環から好循環への発想の転換が必要だ」と話した。
生産性新聞2026年2月25日号:「春闘セミナー2026~今次労使交渉をめぐる課題と展望~」掲載分
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