現場のプロフェッショナル③~ANA大阪伊丹空港・グランドハンドリング職

教える時こそ自分も成長
~着陸から離陸まで定時運航支える 栗岡さん・西野さん

関西の空の玄関口、大阪伊丹空港。1日平均約4万2千人の旅客が利用する中規模空港で、航空機の運航を地上で支えるのがグランドハンドリング職だ。

最短25分間の〝勝負〟

グランドハンドリングの業務は航空機が着陸してから離陸するまでの地上業務の多くを担う。ゆえに仕事は多岐にわたる。航空機が着陸したあとはスポットと呼ばれる所定の場所まで誘導する。停止後はすぐに航空機と搭乗ゲートをブリッジでつなぐ。航空機から貨物を下ろし、新たな貨物を積み込む。旅客が乗り込み出発準備が完了すると、航空機は操縦で後進ができないため、巨大なタイヤのついた専用車を運転してプッシュバックをする。航空機1機あたり2人から4人でチームを組み、着陸から離陸まで最短だと25分間でこれらの業務を行うという。定時運航が求められるなか、まさに時間との闘いだ。

グランドハンドリング職のプロフェッショナルである栗岡伸枝さんは堅実な仕事ぶりが認められ、安全・品質向上の推進者であるクオリティリーダーの重責を担っている。

プロの技量はどのようなところに表れるのだろうか。「プッシュバックはやり直しができません。安全に、管制官から指示された場所まで押していきます。横にフラフラせずまっすぐにスッと。車の運転と同じで搭乗されているお客様の快適さにつながります」。「どれほどの貨物、手荷物が搭載されるのか、それに合わせて積み込みの車両や機材をどのタイミングで準備していくのか。毎回、条件が異なるため業務の進め方にマニュアルはありません。一連の業務の先を読み、逆算して段取りを瞬時に考えることが定時運航のために欠かせません」。技術と判断力に力量の差が出やすいのだという。

プロフェッショナルとして活躍する人財(ANAグループでは人材ではなく人財という字を用いる)に共通する点を尋ねると「興味の強さ」という答えが返ってきた。「もっと知りたいと思うから自分で調べる。それがアイディアとして仕事に反映されてより良い結果につながる。そしてさらに極めていくためにもっと知りたいという具合に循環していくのではないでしょうか」。「このサイクルがどこでコンプリートするのか、それはお客様が完全に満足されたときです。つまり終わりがないのです」。静かな語り口に反して技量を高めることへの飽くなき探求心が伝わってくる。

しかし、一人でプロフェッショナルになれるわけではないという。「教え、教えられながらチームのなかで育っていきます」。「とくに教えるときに自分の成長につながっていると感じることが多いですね。よく理解していないと教えられないですから」。職場では先輩、後輩の間で権威勾配をなくし、対等な立場でお互いに関わることを大事にする。とりわけ安全面については一人ひとりと向き合って毎日のミーティングでとことん話し合うようにしている。

最後は「人間性」

栗岡さんの上司にあたるマネージャーの西野健司さん。西野さんは「人間性」こそがこの仕事を究めていくうえで大事だと考える。「私たちの仕事は当たり前のことを当たり前に、簡単なことこそ手を抜かず丁寧にやることが求められます。毎日、1便1便を丁寧に。だからこそ最後に行きつくところは人間性なのです。人としてありがとう、と感謝の気持ちを伝えられる。自分から心のこもった挨拶ができる。まさに当たり前のこと、簡単なことかもしれませんが、こういうことができるかどうか」。「テクニックを身につけることである程度までは成長します。でもグランドハンドリングのプロとして頭一つ抜きんでることができるかどうかは結局、人間性にかかっているように思います」。

人間性は他のメンバーと仕事をするうえでも重要になるという。「飛行機は多くの仲間と協力し合って飛ばすことができます。決して自分たちだけで飛ばす訳ではない。だから前後の部署に気づかいができるかどうかも人間性に掛かってきます」。
最後にプロフェッショナルの育成方法を西野さんに尋ねた。「技量は徹底した反復練習です。最終便のあとに深夜の駐機場で練習をしています」。重きを置く人間性はどうだろう。「フィードバックを通じて培っています。この時世に厳しいことを伝えるのは簡単なことではありませんが避けては通れません」。相手の成長を思うからこそしっかりと伝えていく。

全体最適考える社員に

育成全般を通じて意識していることは他の部署に異動したとしても活躍できる人財を育てることだという。グランドハンドリングのプロを極める社員だけでなく、異動になる社員もいるからだ。しかし、西野さんが言いたいことは表層的な能力の獲得のことではない。自分たちのことだけを考えるような部分最適ではなく、前後で関わる他のセクションのことを全体最適で考える社員を育てていきたいという思いの表れだ。
職場の仲間が人間としての魅力が増し、成長していく姿を目の当たりにするのが何よりうれしいと語る。

執筆者:日本生産性本部 コンサルティング部 人材・組織開発コンサルタント 栗林裕也
生産性新聞2025年11月5日号:「現場のプロフェッショナル第3回」掲載分

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