半導体メーカー「エヌビディア」の戦略から読み取る
プラットフォーム・市場進出・組織戦略~3つの特徴的戦略

日本生産性本部は2025年5月14日、第76期「経済情勢懇話会」の5月例会を都内で開催(オンライン併用)した。「エヌビディアの戦略から読み取るAI時代に必要なこと」をテーマに、エヌビディア日本代表兼米国本社副社長の大崎真孝氏が講演した。
エヌビディアは、1993年に設立されたアメリカの半導体企業。画像処理半導体(GPU)の開発で知られ、AI半導体市場で圧倒的なシェアを誇る。一時は世界で最も時価総額が高い企業となった。グラフィックス、ハイパフォーマンスコンピューター、AIの三つを事業領域としている。
大崎氏は、エヌビディアの戦略について、ハードウエアとソフトウエアを拡張性のある形でつなげていく「プラットフォーム戦略」開発者のエコシステムを作ることに注力する「GTM(市場進出)戦略」、スタートアップ的な「組織戦略」の三つが特徴だと指摘した。
同社は、経済産業省の助成や国内企業との協力で、日本の生成AIインフラの構築を推進し、「ソブリンAI(国が自国のインフラ、データ、労働力、ビジネスネットワークを用いて人工知能を生み出すことができる能力)」の基盤づくりを強化している。

AIの命であるデータをしっかりとAIに転化する
大崎氏は、「日本のデータは日本でAIに転化すべきで、自社内のデータは自社でしっかりとAIに転化すべきだ。AIはデータが命であり、データをしっかりとAIに転化していくことが今後の日本の勝ち筋につながる。データの多くは製造業から生まれる。モノづくりのデータを次の世代のAIに転化することが重要だ」と指摘した。
多くの日本企業がAIに乗り遅れた理由については、①ソフトウエア志向の欠如、②企業間の下請け構造、③これまでの成功体験からのイノベーションのジレンマ、④経営者のチャレンジ力=特にAIなどの最新技術への理解度が十分でない、⑤グローバルレベルでの動きに対する感度の五つを挙げた。

社内エンジニアを熱狂させよ
大崎氏は、「日本企業は協力会社に丸投げするところが多いが、AIはアイデアがないと事業化も見込めず、活用の知見もたまらない。世界的にも知見を持っている企業が成功している。これまで日本企業はインクリメンタル(漸進的)イノベーションで成功してきたが、AIは破壊的イノベーション(ディスラプティブイノベーション)であり、そこでイノベーションのジレンマが起こる。イノベーションを起こすには組織を説得させる、大きなパワーが必要だ。そのときに経営者が技術を理解できないと従業員を説得できない」と述べた。
また、日本がAIでさらに躍進するには、「AIエンジニアを熱狂させる環境をつくること」「経営者の技術理解力(または感度)と迅速な判断と挑戦」「これまでのモノづくりの資産を生かすことと新たな技術の相乗効果」の三つが重要だと強調した。

経済情勢懇話会は、わが国を取り巻く経済・社会の情勢を広い視点から研究し、経営の判断や指針構築に役立てることを目的に開催している。第76期は4月から9月まで。対象は、企業・団体のトップマネジメント・経営幹部。

トップのための昼食会方式の月例セミナー
経済の流れを読み、社会の動きをつかみ、明日の経営に活かす

生産性新聞2025年6月5日号:「経済情勢懇話会 第2回」掲載分