労使協議制とは

労使協議制の経緯と発展

労使協議制は団体交渉による労使間の話し合いを補い、課題解決等にむけた対話をより深める制度として近代に至って登場しました。労使協議制が登場したひとつの背景は、1952年に採択されたILO(国際労働機構)第94号勧告です。「企業における使用者と労働者との間の協議及び協力に関する勧告」と題された勧告の骨子は次のようなものです。

使用者及び労働者の相互に関係のある事項で,団体交渉制度の範囲内にないもの又は雇用条件の決定に関する他の制度によって通常取り扱われないものすなわち生産性向上に関する問題等について、企業における使用者と労働者との間の協議及び協力を促進するために適当な措置をとるべきである。協議及び協力は、国内の慣習又は慣行に従って、

(a) 当事者間の自主的協定を奨励することによって助長するか、
(b) 協議及び協力に関する機関を設置する法令で、各種企業の特殊事情に適するように、これらの機関の権限,機能,構成及び選挙方法を決定するものによって促進するか、または、
(c) 以上の方法の組合せによって助長し、または促進すべきである。


              「企業における使用者と労働者との間の協議及び協力に関する勧告」
                日本生産性本部 綱領・宣言集(ILO第35回総会 1952年)より

わが国でも、1946年に中央労働委員会が「経営協議会指針」を発表しました。指針では、労使協議制を労使間の対等で自律的な話し合いの仕組みとして位置づけ、労使による話し合いの機運を醸成するきっかけとなりました。

また、1955年に設立された日本生産性本部は、労働基本権による団体交渉とは異なる労使の話し合いの制度としての労使協議制を提唱しました。この制度は、生産性運動三原則(①雇用の維持拡大、②労使の協力と協議、③成果の公正な分配)を理念とする生産性向上を支える基盤となることを主旨としています。この考え方は、高度経済成長と相次ぐ技術革新の進展という時代背景を受けて労使に積極的に受け入れられました。

1960年の三井三池炭鉱などの労働争議を契機として、産業界の労使は、産業構造の転換に対して反合理化闘争ではなく協議を通じて対応する意義を学びました。その結果、この協議制が広く浸透していきました。さらに、1970年代に入って高度経済成長のひずみが問題となり、公害や企業エゴへの批判が高まったことに対して、労使による協力・協議のもと「社会的責任」という視点を強め、社会との調和を図る取り組みが行われました。

このような中で、西ドイツを中心とした欧州での労働者重役制、労使共同決定制などが、我が国へ紹介されるようになりました。これを受けて多くの労働組合では、このような産業民主主義の立場から経営参加としての労使協議のあり方も積極的に検討するようになり、着実な発展が見られました。

労使協議制の意義

団体交渉は、主に労使の利害が対立する諸問題を取り扱うものであり、その大部分は一定期間内に結論を出す必要があります。また、その背景には「実力行使」という手段が控えています。したがって、交渉事項や交渉方法に限界が生じることは避けられません。しかし、現在の企業経営においては、急速に進むデジタル化、情報化、技術革新、グローバル化、少子高齢化といった社会の変化に対応すべく、さまざまな施策が求められています。したがって、企業経営の在り方や施策は、直接労働条件に関わるものはもちろんのこと、直接関係のない問題であっても、何らかの形で労働者の生活条件に関わる場合が多くあります。労働組合としてもこれらの動向を看過することはできず、きちんとした対応が必要となります。

このような背景から、企業経営とりわけ労使の利害が一定程度共通する諸問題(団体交渉の範囲外、またはなじまない問題)について、労使双方が胸襟を開いて話し合い、相互の理解と信頼関係を深めるとともに、労働者(労働組合)の意思・要望をできるだけ経営に反映させるための機構、ないしは手続きとしての労使協議制がいっそう重視されるようになりました。

このように労使協議制は、人間性尊重と相互信頼を基礎とした労使パートナーシップを高め、生産性向上に資する具体策をはじめ労使が抱える諸課題の解決策について協議する場として、きわめて重要な役割を担っています。また、働く者や労働組合による経営参画の形態の一つでもあります。

労使協議制の機能としくみ

労使協議制には2つの重要な機能が含まれています。

1つ目は、人間性重視と相互信頼を基礎とした労使のパートナーシップを高め、労使の信頼関係と協力関係を強化、発展させることです。労使関係の安定化と協力関係の発展のためには、企業をとりまく環境や企業の状況、そして職場の実態などについて労使が共通の認識を持ち、話し合いを通じて相互理解を深める必要があります。そうすることで、労使の信頼関係と協力関係は促進されます。

2つ目は生産性向上をはじめ労使の利害が共通する諸問題について、相互に建設的なチェック・提言・提案を行い、その実現のための具体策を策定し実行することです。今日の企業経営では、施策の立案にあたって衆知を集めることが必要であり、その実行には全員の十分な納得と使命感が必要です。ある意味で労使協議制は「お互いに知恵を出し合う場」であるといえます。こうした労使協議制においては結論も大切ですが、その過程のプロセスも大変重要なのです。率直かつ自由で建設的な話し合いそのものに重要な意義があります。

労使協議制のしくみは名称も含め、各企業によって異なりますが、通常は労働協約を締結し、それに基づいて労使協議制を設けます。労使協議制の機関は、

・労働組合の中央本部と経営者との間に設けられる中央労使協議会(経営協議会、労働協議会などの名称もある)
・工場、事業所ごとに組合支部と工場・事業所幹部との間に設けられる事業所別(支部)労使協議会
・あるいは部門別に設けられる部門別協議会、各職場に設けられる職場協議会

などがあります。
こうした労使協議の機関のねらいは、各労使レベルでの課題解決にむけた協議とともに、使用者の専権事項等に対して、労働組合の意見を反映させることになります。

労使協議制の機能的な進め方

労使協議制を民主的かつ効率的に機能させるためには、少なくとも次のような基本的な認識と姿勢が必要です。

①労使はパートナーである

労使は民主主義の根本原則に従って、それぞれ独立した機能を持つものであり、互いに相手の立場を侵したり、混同することのないように十分、気をつけておかなければなりません。相互の立場を認めあい、お互い不介入の原則をふまえた上での「協力者」「パートナー」であることを明確に認識し合うことです。

②話し合いで問題を処理する

労使双方自由・対等な立場での話し合いの積み重ねが、労使間の問題を処理する最善の方法であることを互いに認識し合うこと、また労使は互いに話し合いによって「問題を処理する能力」があり、かつ「責任を分かつに足る存在」であることを認め合うことです。

③労使双方が確信と熱意を持つ

生産性向上などの課題は、労使協議を軸に協力して進めるべきだという「確信と熱意」を双方が持つことが重要です。使用者は労働組合の意見や提案に真剣に耳を傾け、耳ざわりの悪いことも受け止める姿勢を持ち、できる限り職場の声を経営に反映させる努力を示す必要があります。一方、労働組合も職場の声をもとに経営の課題を積極的に提起し、協力すべきは協力するという姿勢が求められます。

④協議能力の向上を図る

労使は具体的な協議能力を高めるために、それぞれの立場から教育活動を積極的に進めることが必要です。とりわけ労働組合はこの点が大切です。労使が共通の土俵の上に立って協議ができ、その提案が適切かつ効果的であるように、協議能力の向上を図ることは必須といえます。

次に労使協議制の進め方については、まず労使双方が情報の提供を十分に行うことです。これが中途半端では、相互の真の理解は不可能です。労使双方の持つ情報や見解を素直かつ丁寧に提起し合うことが基本ですが、相手方の案に反対の場合は「常に対案をもって」論議するという姿勢が重要です。こうした姿勢があってこそ政策立案能力は高まり、実質的な労使対等での労使協議となるのです。また、協議の結果、意見の一致を見たものについては労使双方がその実施について責任を持つことは当然です。意見の一致を見ない場合の処理についても、あらかじめ取り扱いの方法を明確にしておくことが重要です。これらのことは、相互信頼の点からも大変重要です。

協議内容の機密事項については、これを厳守することは当然ですが、その他の事項については全員に対してその内容を周知させることも必須です。

労使協議制の形態

労使協議制の機能を、団体交渉との関係から分類すると、「完全分離型」「連結型」「混合型」の3タイプに分けられます。

①団体交渉事項を扱わない     団体交渉事項を全く取り扱わない完全分離型。つまり、労働条件に直接関係する事項は団体交渉でおこない、労使協議制では経営、生産事項などの経営問題を中心としたものを扱います。このタイプが全体の40%を占めています。
②労使協議で合意を得られない問題を団体交渉で扱う          団体交渉事項である労働条件をはじめ経営、生産などに関するすべての問題をまず労使協議制で話し合い、そこで労使の合意が得られなかった労働条件にかかわる問題について、改めて正式の団体交渉で扱う連結型。これは全体の約30%を占めています。
③団体交渉とは区別しない団体交渉とは区別せず、団体交渉事項の労働条件や経営、生産事項などのすべてを労使協議制で話し合うという混合型。これは全体の約30%となっています。

労使間における問題解決の方式は、その労使関係の歴史や文化によってさまざまな影響を受けることは避けられません。したがって、労使協議制についても標準型はなく、いずれの形が有効かなどの判断は、それぞれの労使に委ねられます。
一方で、労使協議制の導入が必要とされた歴史的な背景や経緯、労使協議制の本来の目的や機能、そして労働組合の自主性、主体性を一層高めていく重要性を総合的に考慮すると、団体交渉と労使協議制とは、それぞれの意義をふまえ、必要に応じて分けて活用することが望ましいと考えられます。

参考文献

城島正光.『労働組合読本【新装改訂版】』公益財団法人 日本生産性本部 生産性労働情報センター,2013
企業における使用者と労働者との間の協議及び協力に関する勧告」日本生産性本部 綱領・宣言集(ILO第35回総会 1952年)

執筆:日本生産性本部 生産性運動基盤センター 

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