日本生産性本部 サービス産業生産性協議会は2026年2月9日、「オープンイノベーションのはじめ方セミナー」を開催した。オープンイノベーションを推進する日本最大級のオープンプラットフォーム「AUBA」を運営する株式会社eiiconと、国内におけるオープンイノベーション推進の中核的役割を担う一般社団法人日本オープンイノベーション研究会(JOIRA)が登壇した。さらに、オープンイノベーションを支援する自治体である神奈川県と、実際にオープンイノベーションに取り組む4社(株式会社小田急SCディベロップメント、江ノ島電鉄株式会社、株式会社鈴廣蒲鉾本店、YADOKARI株式会社)も加わった。
イノベーション後進国からオープンイノベーション先進国へ

株式会社eiicon 地域イノベーション推進部 部長 草柳 友美氏
「イノベーション後進国からオープンイノベーション先進国へ」をビジョンとしてかかげる株式会社eiiconの草柳氏は、日本がグローバル競争の中で再び競争力を発揮するための源泉は、企業の垣根を超えたオープンイノベーションによる共創だと述べた。
同社は、ミッションを「全ての企業に新規事業創出基盤を埋め込みます」としている。「新規事業をやれる会社は一握りなのではないか」「優秀な人材でなければできないのではないか」という相談が多く寄せられるというが、やり方さえ埋め込むことができれば、全ての企業が新規事業創出の基盤を持つことができると語った。まず重要なのは、どのようなテーマで新規事業を創出するのかを言語化することである。このプロセスを通じて、「他社と組んでまでやりたい事業は何か」が明確になり、それが新規事業創出の第一歩になると説明した。

第4回日本サービス大賞で優秀賞を受賞した、株式会社eiiconの受賞サービスについてはこちら
一般社団法人日本オープンイノベーション研究会(JOIRA) 代表理事 成富 一仁氏
続いて登壇した、オープンイノベーションの啓発活動や人材育成に注力する一般社団法人日本オープンイノベーション研究会の成富氏は、オープンイノベーションが社会で認識され、政策的にもサポートされるようになった一方で、実装段階では依然として課題が残されていると指摘した。
実際に新規事業の開発に取り組む段階に入ると、複数社での連携には一社単独での開発よりも難しさもあると成富氏は述べ、その具体例として、組織の境界における知的財産の取り扱い、権利問題の調整、複数社間のコミュニケーションなど、プロジェクトを前に進めるために、事前に準備・協議すべき項目が多く存在するにもかかわらず、こうした連携を円滑に進めるためのスキルやノウハウが産業界全体に十分浸透していないのが現状だと述べた。
自治体の実践的アプローチ
神奈川県産業労働局 産業部産業振興課 新産業振興グループ グループリーダー 上野 哲也氏
登壇した神奈川県産業振興課の上野氏は、同課では県経済の活性化と社会課題の解決を目的としてベンチャー企業の支援を行っていると紹介した。そして、ベンチャー企業の事業をより大きく成長させるための手段として、オープンイノベーションを活用していると述べた。
その具体的な施策が、2019年11月に立ち上げた「ビジネスアクセラレーター神奈川(通称BAKU)」である。協議会という形式で気軽に参画できるコミュニティであり、現在では1,000社を超える企業が参加している。協議会として、マッチング支援、実証場所の確保、PR活動などを行い、すでに100件以上の連携プロジェクトが生み出されている。 BAKUの特徴は、段階に応じた決め細やかな支援を行い、オープンイノベーションへの企業の参入障壁を低減している点にある。
第一段階「知る・触れる」:月1回のイベントやセミナーを開催し、事例紹介を通じてオープンイノベーションへの理解を深める。
第二段階「出会う」:ホームページを通じたマッチング支援により共同事業のテーマを掲載し、企業同士の出会いの場を提供する。
第三段階「実現する」:出会った企業が実証や事業化を目指す場合、実証のための費用を県が提供し伴走支援を行う。

企業によるオープンイノベーションの実践事例
その後行われたオープンイノベーションを実践した企業4社からの講演と、全登壇者によるパネルディスカッションでは、実例を通じてオープンイノベーションを成功に導くためのポイントが明らかになった。
1.株式会社鈴廣蒲鉾本店・YADOKARI株式会社
株式会社鈴廣蒲鉾本店 企画開発部 兼 メディア営業部 部長 松井 孝成氏
YADOKARI株式会社 代表取締役 上杉 勢太氏
神奈川県小田原市の老舗企業である株式会社鈴廣蒲鉾本店(以下、鈴廣)と、トレーラーハウスという移動式の空間を活用してエリア開発や街づくりを行うスタートアップ企業であるYADOKARI株式会社(以下、YADOKARI)は、観光事業の課題解決を起点とした共創事例を紹介した。
コロナ禍で団体客からマイカー利用客へとシフトする中、小田原地域における宿泊施設不足が課題となった。鈴廣はこの課題を「自社だけでは完結できない」と認識し、自社が持つ未活用地を活用して小田原の“食”を担い、地域に根ざす人をベースにした観光体験を提供し、地域事業者と共創する観光ブランドの構築をゴールとして、YADOKARIと共に移動式トレーラーハウスを活用した新しい観光モデルの実証に取り組んだ。
農業体験の6次産業化支援、漁業体験のコンテンツ化など、地域プレイヤーも巻き込んだ1泊2日のツアーは、利用者の満足度が高かった。一方で、人を介したオペレーションの効率化が課題として浮上し、その後も継続的に改善を重ねている。登壇した鈴廣の松井氏は、自社だけでは気づき得ることができなかった取り組みが、課題感を持つ2社によってスピーディーに実現できたことがオープンイノベーションの強みだと述べた。

鈴廣とYADOKARIが、未活用地と移動式トレーラーハウスを活用し、小田原・真鶴の地域資源を生かした新たな観光モデルを共創
2.株式会社小田急SCディベロップメント
株式会社小田急SCディベロップメント 企画開発部 課長代理 加藤 啓太氏
2020年のコロナ禍と同時に設立された株式会社小田急SCディベロップメントでは、組織内で新規事業推進への壁があったという。オープンイノベーションでは自社内の理解を得ないと進めていくことができないため、企画開発部 課長代理の加藤氏は、良い話を持っていくことを心掛け、無理のない範囲で協力を依頼し、そこから小さな実績を積み上げていくことで社内の理解が深まっていくと、社内で上手く進めていくためのポイントを経験談から語った。
3.江ノ島電鉄株式会社
江ノ島電鉄株式会社 経営管理部 課長 地域共創担当 兼 企画担当 兼
地域プロデュース推進準備室 課長 西口 耕平氏
江ノ島電鉄株式会社が示したオープンイノベーションへのアプローチは、経営理念を軸とした戦略的な新規事業展開である。オープンイノベーションを通じた新規事業の検討にあたり、多様な分野から提案が寄せられているという。その中で「やらないこと」を決めることが重要であり、「やらないこと」とは経営理念に当てはまらない事業だと語った。
また、社内で新規事業への協力を得るためには、「オープンイノベーションという言葉を使わないこと」も1つの方法だと、同社の西口氏は話す。シンプルな成功体験が組織内の信頼を生み出し、次のチャレンジを容易にすると述べた。
実践企業に共通する成功要因
パネルディスカッションでは、4社に共通する5つの成功要因が浮かび上がった。
第一は「熱量の一致」である。複数企業間での協業では、パートナー企業との想いや目的の温度差が大きな障害となるため、「相思相愛」に近い状態を実現することが重要だという。事前のヒアリングとそれに基づくマッチングが、この熱量の一致を支える要となっていた。
第二は「小さく始める」ことである。完璧な事業計画よりも、小さな実証実験を実施・検証・改善を繰り返すアプローチが有効であることが共有された。
第三は「明確なテーマ設定」である。「新しい取り組みを事業化したい。それを実現させるためのパートナーを探したい」といった漠然とした姿勢では、パートナー探索の効率性が低下する。具体的な課題や実現したい事業像を事前に言語化することで、マッチングの質が向上する。
第四は「長期的ビジョンの設定」である。実証期間終了後も水面下で事業継続する企業が多く、1~2年後のサービスローンチにつながるケースもある。短期的成功だけでなく、数年単位でのマイルストーン設定が重要である。
最後に「自分事として向き合う姿勢」である。YADOKARI代表取締役の上杉氏は「自分事として向き合ってくれる担当者との取り組みだから、進んでいく」と指摘。松井氏、加藤氏、西口氏も同様に、担当者個人の主体性と熱意が成功を左右すると述べた。
4社の取り組みを通じて見えてきたのは、オープンイノベーションは特別な手法ではなく、明確な目的、適切なパートナーシップ、持続的な実行を組み合わせた実践的なアプローチだということである。

SPRING会員について(会員のメリット・入会方法)
当協議会はサービス産業のイノベーションと生産性向上を目指して国民運動を推進致しています。
執筆者:公益財団法人日本生産性本部 サービス産業生産性協議会 池本彩恵