「労働生産性の国際比較」とは?
「労働生産性の国際比較」とは、日本生産性本部が1981年から毎年1回、OECDや世界銀行などのデータに基づいて世界各国の国民一人当たりGDP、労働生産性、主要先進7カ国の産業別生産性トレンド・産業別労働生産性水準などの比較を行い、例年12月に発表しているレポートです。
毎年、日本の労働生産性の順位を中心に各種メディアに掲載されるので、目にしたことのある方もいるかと思いますが、本編は順位だけでなく、上位の国で生産性が高い理由や産業別の分析など、より幅広い視点からみた内容が盛りだくさんです。この連載では「そもそもどんなレポートなの?」「ここに注目!」といったことを紹介し、楽しく気軽にレポートに関心をもってもらいたいと思っています!初回となるこの記事では、本編を読むに先立って知っておくと、さらに分かりやすくなる事前知識をお伝えします。
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国際比較の成り立ち
1970年代後半、第二次オイルショックから続く石油価格の高騰、日米貿易摩擦(1965年から日米貿易における日本の貿易黒字が続いたために生じた日米の軋轢)、第四次中東戦争などの不安定な国際情勢の中で、今後の産業の健全な生産活動を不安視する声が世界的に高まっていました。一方、日本は2回のオイルショックを乗り越え、製造業を中心に経済成長を続けていたことで国内外から注目を集めていたため、日本の産業の国際競争力や適応力といった実力の明確な把握が必要不可欠だったのです。
こうした状況を受け、学識者や企業の担当者から構成される「生産性国際比較専門委員会」が立ち上がりました。目的は労働生産性水準を正確に把握できる、実用性に富み、計算手続きが比較的簡単で、理論的基礎を持ち得ている計測方法の開発です。それまでの生産性の国際比較は、データ等の制約から“伸び率”による比較にとどまっていましたが、これに対し“水準”の国際比較を可能にする分析方法を開発するという画期的な試みでした。
“水準”で比較するというのは、例えば労働生産性が同程度のA国とB国があったとして、ある年にA国は「10%」、B国は「ー10%」の成長率だったとします。この年に前述の2か国よりも労働生産性のはるかに低いC国も「10%」成長した場合、“伸び率”で見るとA国と同じですが、実態は大きく異なります。また“伸び率”で見ると逆の動きをしたA国とB国も、この年に労働生産性の状況が全くかけ離れるわけではないということはお分かりかと思います。

このように“変化”だけでなく、その時点での“レベル”を明らかにすることで、よりその国の労働生産性の実態を正確に表すことを目指し、その比較を可能にしようとする試みだったのです。
ちなみに初回の報告書には「継続的に公刊する可能性を探る」という記述がありますが、40年間以上にわたって調査を続けられていることを考えると、継続可能な仕組みの構築にも成功したといえるでしょう。
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「労働生産性の国際比較」の読み方
「労働生産性の国際比較」レポートで使用されている主な用語の定義や計算方法について紹介します。
使用されている用語
「労働生産性の国際比較」のレポートでは、主に「一人当たりGDP」「一人当たり労働生産性」「時間当たり労働生産性」の3つについて比較をしていますが、まずは使用されている用語について確認しておきたいと思います。
・生産性
生産性=産出(output)/ 投入(input)で計算され、「何かを生み出すにあたって、必要な資源をどれだけ有効に使えたか」を割合で示したものです。
「産出」には、商品・サービス・利益があたり、
「投入」には、原材料・人・時間・設備・土地などが該当します。
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中でも「労働生産性」とは、労働投入に着目し、働いた人数や時間あたりの産出を示しています。
・GDP(Gross Domestic Product/国内総生産)
一般的には「国内で生み出された付加価値の総額」と言われます。
物を作る、加工する、小売店で販売する…という各段階での
(売り上げ-費用=付加価値)を足し合わせたものの国内における合計です。
国単位の生産性を考えるときの「分子」にあたります。
・就業者
自営業者+家族従業者+雇用者。立場や雇用形態などに関わらず、期間内に収入を伴う仕事に従事(休業含む)する人のことです。
・PPP(Purchasing Power Parity/購買力平価)
別の国で同じものを同じ量だけ購入するときに、それぞれの国の通貨がいくら必要か調べ、多品目での結果を平均した数値です。
例えば、ハンバーガー・コーヒー・文庫本が全てアメリカでは1ドルで買えるとします。それに対し日本では、同じハンバーガーが150円、同じコーヒーが100円、同じ文庫本が200円…といったように価格に差が出る場合、それらを平均することで「1ドルが日本円でいくらに相当するか」を算出します。「労働生産性の国際比較」は第一回から日本円で表現する方法を採用していますが、換算には為替変動の大きい為替レートではなくPPPを用いています。
・為替レート
異なる通貨(例:円⇆米ドル)を交換する際の比率です。例えば1米ドルを手に入れるために150円必要な場合の為替レートは、1米ドル=150円となります。
為替レートは、さまざまな要因によって変動しやすいです。金利や貿易収支、さらには中央銀行の介入、大統領や大臣など要人の発言、紛争・戦争といった政治的要因によっても変動します。こうした点を踏まえ、比較的変動が小さく、また各国内の物価により即していると考えられるPPPを日本円への換算に用いています。
計算方法
これらを踏まえて、レポートのメインとなる3つの計算方法を見てみましょう。
①一人当たりGDP=GDP/人口
その人の状態に関わらず、シンプルに日本の人口当たりのGDPです。
②一人当たり労働生産性=GDP/就業者数
就業者一人あたりが生み出したGDPです。
このとき、各人の労働時間は考慮しないで同じ「一人」としてカウントしています。
→ということは「一人が8時間」で生み出したGDPと、「8人が1時間ずつ」働いて生み出したGDPが同じ場合、前者の労働生産性が8倍になる計算です。
③時間当たり労働生産性=GDP/就業者数×労働時間
②に労働時間も考慮して算出したものです。「一人が8時間」と「8人が1時間ずつ」の場合、生み出したGDPが同じであれば、同じ労働生産性になります。
上記3つの計算方法を用いて、国全体や産業別の労働生産性を算出し、比較しています。またこうした定点観測を基本としながらも、リーマンショックの影響、GDP基準の改定、新型コロナウイルス感染拡大前後での比較など、その年に合わせた項目を追加しています。
比較対象となる国の数
1981年(第一回)は、欧米5カ国(イタリア、イギリス、米国、フランス、西ドイツ)と日本、アジア5カ国(韓国、パキスタン、シンガポール、フィリピン、タイ)と日本、という形で、6カ国ずつを比較しました。また国単位だけではなく、個別企業の生産性も取り上げていたようです。
2025年(最新)では、日本を含むOECD加盟38カ国を対象としています。
留意点
毎年、最終章では世界銀行のデータを用いることでより多くの国との比較(2025年版では156カ国)も行っていますが、基本的にはOECD加盟国での比較を中心に扱っています。これはデータの制約によるものであり、公式統計を利用しても実態とずれがある場合が避けられないからです。例えばスラムで鉄くずを拾って、その交換を通じて金銭を得るのは「労働」だと思いますが、これを国の公式統計として把握することは難しいです。特に開発途上国では、こうした面で正確に捕捉できていない場合があるため、公式統計と実態のずれが比較的小さいと思われるOECD加盟国に対象を絞って比較を行っています。
次回予告
今回の記事を踏まえて、次回は「『労働生産性の国際比較』を読もう!~2025年版 分析編~ 」として、最新レポートの概要や注目ポイントを解説する予定です。それ以降も新しい結果の公表に合わせて都度紹介したり、経年で変化の分析を紹介したいと思っています。今後もお楽しみに!
執筆者:公益財団法人日本生産性本部 生産性研究センター 杉山 佳奈子