優秀賞・審査員特別賞 ママスクエア

託児付きオフィス事業で第5回日本サービス大賞の優秀賞と審査員特別賞をダブル受賞したママスクエア代表取締役の藤代聡氏は、生産性新聞のインタビューに応じた。「子どものそばで安心して働ける」という新たな働き方を提案したママスクエアは、地方在住の女性の再就労支援、就業機会創出を実現し、都心の成功例を地方にも広げる考えを示した。

親子ともに楽しむ空間を
ママスクエアは、「子どもを預けて働く」か、「預けられないので働けない」かという苦渋の選択を迫られていた子育て中の女性に対し、「子どもを連れて〝同じ空間で一緒に働く〟」という新たな選択肢を提供した。
そして、BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)業務委託企業の生産性向上や労働力確保、商業施設や商店街の集客向上、遊休施設の活用、待機児童対策、就労支援など多面的なメリットをもたらす仕組みを構築している。
1989年にリクルートに入社した藤代氏は、営業職を10年間、事業開発を5年間経験した。そして、独立して最初に挑戦した事業が、ママスクエアの原型の「親子カフェ」だった。 藤代氏は休日、子どもを連れて出かけても、雨の日に子どもと親の双方が、時間を過ごせる場所がないことに気が付いた。「ボールプールでは子どもは楽しいが親は飽きる。カラオケだと親は楽しいが、子どもにとってはつまらない」。
「子どもの笑顔を増やしたい」という思いを込めて、考え出したサービスモデルが親子カフェだった。ボールプールの横にカフェがある。名古屋のトランポリンカフェを訪れて、ノウハウを教えてもらい、店舗を開発した。開店すると、1カ月先まで予約で埋まる盛況ぶりで、その後、20カ所の店舗を展開した。
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面接で泣き出す姿に衝撃
親子カフェで働いてもらうために、多くの子育て中の女性と面接し、衝撃を受けた。「面接の最中に突然、泣き出す人が続出した。事情を聴くと、面接までたどりつけずに断られることが多く、『社会から必要とされていない』と自信を失っていた。『面接されることに感激している』のだという」。
採用した女性たちには優秀な人材が多く、「こんなに優秀なのに働く機会がないのはおかしい」と思うようになった。ただ、親子カフェでは、ホールスタッフと保育スタッフがメーンの仕事で、彼女たちの能力を十分に生かしきれなかった。
そこで、キッズスペースの横に、カフェではなく、オフィスをつくり、事務の仕事を受託することを考えた。「親子カフェの実績があったので、必ずできるという確信があった。子育て中という理由で、能力のある人たちが働けないという課題に対するソリューションを提案し、世の中に知ってもらいたい」という思いでスタートした。
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想定外の課題を楽しむ
2014年、親子カフェから法人格を変更し、会社をゼロから立ち上げた。託児付きオフィスは、まだ世の中に存在していなかったので、プレゼンを聞いた人たちからは「子どもが騒いでいる中で、まともに仕事ができるのか」など、懐疑的な声も聞かれた。
しかし、不動産開発会社などへのプレゼンを重ねていくうちに「これは絶対にうまくいく。ぜひ、当社に出店してください」と魅力を感じてくれる担当者が現れ始めた。「百聞は一見にしかず。プレゼンだけでは懐疑的に感じていた人たちも、実際に作って見せることで圧倒的な説得力を持たせることができた。『同じものをうちにも作ってくれ』という依頼が相次ぎ、加速度的に広がっていった」。
ただ、すべてが順風満帆というわけではなかった。ある時、視察に訪れたBPOの委託企業から、「通行人に作業中のパソコンの画面を見られるのはまずい」と指摘された。
子どもの遊び場に隣接し、ガラス越しに母親が働くオフィスを見ることができる安心感がママスクエアのアピールポイントであり、譲れないコンセプトだ。「BPOの仕事を取るためには、ガラス越しのコンセプトを諦めざるを得ないのか」と頭を悩ませた。しかし、今後の店舗展開の在り方を左右する1号店のデザインで、ガラスを閉じて、壁にするという選択肢はあり得なかった。
パソコンの画面を外から見えないようにするために、オフィス側の一部をすりガラスにし、子どもと母親はクリアガラス越しに目線を合わせられるつくりにした。「これならいいですね」とクライアントの納得を得ることもできた。
「ゼロからイチをつくるとき、想定していなかった課題がたくさん出てくる。それをクリアしていくのは楽しみでもあり、貴重なノウハウになる。産みの苦しみは、逆に楽しい」。
ママの力で「地方活性化」
こうして生み出したママスクエアを、自治体や企業などと連携し、地方にも展開することにも挑戦している。2016年には奈良県葛城市と連携し、サテライトオフィス「ママスクエア葛城店」を開設し、市内在住の母親が、子育てしながら働ける環境を整備した。地方での採用難や女性活躍のニーズに応えるため、全国拡大を推進している。
地方の山間部で廃校になった学校施設をママスクエアの拠点として活用するプロジェクトも進行中だ。地元企業や地方展開を視野に入れている新興企業などと連携しながら、女性の力をテコに、地方の活性化を目指す。
拠点が拡大すると、BPOの仕事量も増やさなければならない。人手不足で悩んでいる業界をターゲットにして、遠隔地のオフィスでもできるDX関連の仕事をクライアントと共同で開発している。
藤代氏は「個人の年収を2倍にするのは非常に難しいが、夫婦で働いて世帯年収を増やすことはできる。託児付きオフィスがどこでも活用できるようになれば、少子化の効果的な解決策になりうる」と話している。

1989年にリクルートフロムエー(現リクルート)入社後、10年間で3500社のクライアントを担当する営業として活躍。その後、事業企画部やメディアプロデュース部に異動し、「タウンワーク」の全国展開プロジェクトではプロジェクトリーダーを務め、37歳で独立。2004年に親子カフェ「スキップキッズ」を創業し、20店舗まで事業を拡大。2014年にママスクエアを創立し、代表取締役に就任。
生産性新聞2026年8月25日号:「サービスイノベーションの挑戦第12回」掲載分
登場人物の所属・役職は新聞掲載時のものです。