優秀賞 HELLO!MOVIE

映画公開日からバリアフリー全国上映を提供する「HELLO!MOVIE」で第5回日本サービス大賞優秀賞を受賞したハロームービー代表取締役社長の瀧川淳氏は生産性新聞のインタビューに応じた。日本の映画館のバリアフリー環境に革新をもたらした「HELLO!MOVIE」を世界中に広めることに意欲を示した。


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スマホと音声技術を連携
「HELLO!MOVIE」は、独自の音響通信技術を用いて、専用のアプリを映画館のスクリーンに投影されている作品に同期させることで、視覚障害者や聴覚障害者が全国の映画館で映画鑑賞を楽しむことができるサービスだ。アプリをダウンロードすることで、視覚障害者には「スマホで聴く音声」、聴覚障害者には「ARグラスで見る字幕」を、国内全ての映画館で提供できる。
「多様性を尊重する社会を先導するモデル」と高い評価を受けたが、「HELLO!MOVIE」の技術が障害者のために活用されるようになったのは全くの偶然だった。
2023年12月にハロームービーが設立される15年近く前、親会社のエヴィクサーは、「音響透かし」という音声関連技術をどうマネタイズするのかを探っていた。その後、世の中にスマホが急速に普及。「スマホやテレビと連携させることができたら面白いことができる」という漠然としたアイデアが浮かんでいた。
そして、最先端の技術を調査しようと、2011年、米国で開催される世界最大級のテクノロジー・電子機器の見本市CES(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー)に出かけた。
当時のCESは、スマホをセカンドスクリーンと呼び、ファーストスクリーンであるテレビとの連携が話題だった。瀧川氏は「今でこそテレビはインターネットと簡単につながるが、当時はアンテナでしかつながっておらず、音声技術は両者をつなぐ技術として注目されていた」と振り返る。


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障害者向けに活用
日本に帰ってから大手広告代理店を訪問し、音声技術を使ってテレビとスマホをつなぎ、テレビCMと連動するアイデアを実用化させた。「スマホアプリと連動させて、ゲームを楽しむ仕組みが上手くいって、メジャーブランドのCMに採用された」。
そして、2013年、このCMの企画が縁で、KADOKAWAのホラー映画「貞子3D2」の特殊効果に採用された。世界初の「スマ4D」と題し、上映中に無料アプリを起動させることで、音声認識で本編と連動した仕掛けが施された。「映画のシーンとスマホの反応のタイミングが少しでもずれると、興ざめになってしまう。寸分のずれもなく同期させるほか、機内モードで動かすなど技術要件が非常に厳しく、当社の技術のブラッシュアップにつながった」。
テーマパークのアトラクションのような臨場感で映画を楽しめると話題を集め、その年の暮れ、4Dの制作秘話を語るシンポジウムに招かれた。そのシンポジウムの会場に足を運んでいたのが、メディア・アクセス・サポートセンターの関係者だ。障害者にも映画や映像コンテンツを楽しめる環境を実現するために活動しているNPO法人で、「スマ4D」の仕組みに興味を持った。開催後に、「障害者向けの環境整備にこの技術を活用できないか」と問い合わせがあった。
瀧川氏は「技術開発に取り組む会社にとって、『この技術を活用したい』という申し出をいただくのは有難いこと」と話す。これがきっかけで、視覚・聴覚障害者が映画館で映画を楽しめる環境を実現するための開発を本格的に進めることになった。
世界一のバリアフリー
映画館での映画の楽しみ方は人それぞれだが、恋人や家族と一緒に、映画館での体験を共有したいという気持ちは、障害者も健常者も同じだ。障害者と健常者が一緒に映画館に来場した時、「HELLO!MOVIE」があれば、楽しい時間を共有することができる。
視覚障害者向けの音声ガイドはイヤホンを付けて楽しめるが、聴覚障害者向けには字幕を投影するARグラスが必要で、1台10万円というコストが課題だった。瀧川氏は「当社の株主であるサンライズ社がARグラスを600台寄贈してくれた。全国100の映画館に5台ずつ配布し、聾学校に100台貸し出すことができた。今は日本の映画館のバリアフリー環境は世界一だ」と胸を張る。

全ての人が楽しむツール
瀧川氏は、「HELLO!MOVIE」を開発するまで、障害者問題に関心が薄かった過去を振り返り、業界の取り組みでの居心地の悪さを感じていた。しかし、障害を持つ知人から「無関心だった人がビジネス感覚で取り組むからこそ、HELLO!MOVIEはメジャーになれる」と言われ、自信を持てたという。
そして今、「HELLO!MOVIE」は、映画の楽しみ方を大きく変革している。副音声コンテンツや音声解説を同時に視聴できるコメンタリーサービスを始めた。「複数回、同じ作品を鑑賞するリピーターに好評で、映画の興行収入を2~3%押し上げると評価されている」。
子どもたちから「ディズニー映画にも対応してほしい」と要望を受け、米国のスタジオと交渉するなど、洋画の対応を増やしている。また、「鬼滅の刃」など日本発の世界的な作品も増えており、システムの海外展開にも力を入れている。
瀧川氏は「HELLO!MOVIEを障害者対策だけに限定するのではなく、全ての人が映画を楽しめるためのツールとして世界中に広めていきたい」と意欲を示している。
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◇ 第6回日本サービス大賞の応募は、10月29日まで受け付けています。詳細はこちら。

2003年、一橋大学商学部経営学科卒業。同年、韓国ITベンチャーWisehyunに参画後、2004年にITスタートアップのエヴィクサーを設立。2008年以降、デジタルコンテンツ流通の隆盛をにらみ、業界に先駆けてACR(自動コンテンツ認識)技術、音響通信技術を開発。テレビ、映画、舞台、防災などの分野へ応用し、「スマホアプリを使ったバリアフリー上映」「字幕メガネ」を定着させる。23年カーブアウトの形でハロームービーを設立。
生産性新聞2026年10月5日号:「サービスイノベーションの挑戦第16回」掲載分
登場人物の所属・役職は新聞掲載時のものです。