【組織におけるAIコーチング】第1回:AIコーチングが管理職の救世主!?

1on1の課題を解決できるか

AIの進歩・普及が急速に進み、経営や企業の実務においてもAIの活用が喫緊の課題となっている。本連載(全5回の予定)では、経営や企業におけるAIをめぐる様々な動向の中でも「AIコーチング」に焦点を当てて、現状、企業での取り組み、それらの持つ意味について紹介していきたい。もともと現代的な要請が強くなっている分野であり、多くの企業にとって共通する課題の解決につながりうるからである。

誰もがAIを使う時代

2022年11月のOpenAIによるChatGPTの公開以来、AIの進歩・普及が急速に進んでいる。これまでにも幾度ものAIブームがあったが、対話型で容易に誰でも使用可能なことから、ユーザー数が5日で100万人、2カ月で1億人と、驚異的な伸びを見せた。その後の展開はご存じの通りで、様々なAIやAIを活用した製品・サービスが登場し、マルチモーダル化、推論型やAIエージェントの登場など、まさに日進月歩で目まぐるしく状況が変化している。

AIが人間の知能を超えるシンギュラリティ(技術的特異点)の到来も現実味を帯び、これからの社会の変化に注目が集まっている。AIの利用度が低いとされる日本においても、既に様々な分野で導入・普及が進み、2025年5月から全都立高校で「都立AI」という生成AIを活用した学習が始まったというニュースは耳目に新しい。

経営や企業の実務においてもAIの活用が喫緊の課題となっている。少し前までは積極的に活用する個人・企業とそうではない個人・企業の両方が存在していた感じがあった。だが、いまでは急速な技術変化の中で様々な分野でその方法が模索されている。 単純な業務の代替や支援から、製品開発や新規事業のような創造的な課題、コーチングを通じた成果や学習の促進という対人的な業務など、多岐にわたって活用が模索されている。

コーチング型の要請

「コーチング」という言葉が、ビジネスの世界において一般的な言葉となって久しい。その背景には、多くの企業に共通するいくつかの課題が挙げられる。

ひとつには、価値観の多様化、個人主義の進展、多様性から法令遵守に至るまで様々な配慮の要請などの社会環境の変化により、これまでの上意下達のマネジメントやリーダーシップが通用しづらくなったことが挙げられる。そのため、個人の意思や主観を大切にして引き出すようなコーチング型のマネジメントやリーダーシップが求められるようになってきている。

もうひとつには、VUCAの時代と呼ばれて久しいように、事業環境が急速に変化し、これまで通りのやり方が通用しなくなってきていることが挙げられる。

いわゆる正解がわかっている場合には、上位者や年長者の言うことに従い、ロールモデルとなる彼らを目指して成長していくというやり方が有効であった。一方、変化が激しく先の見通しがつかないVUCAの時代には、変化している現在を手探りで経験しながら、ときにみんなで知恵を出し あって、自分たちなりの正解を常に創り出し修正していくことが求められる。この時にも、各個人の知識や能力や考えを引き出して活用できるコーチング型のマネジメントやリーダーシップが必要となる。

そこで、部下の仕事におけるパフォーマンスを改善するための管理職によるコーチング(型のマネジメント)が求められるようになっているのである。

1on1の普及と課題

昨今、様々な企業で1on1ミーティング(以下、「1on1」)が導入されている。この分野の研究書である『管理職コーチング論』(永田正樹著、2024年、東京大学出版会)では、1on1は管理職コーチングの実践の一形態とみなされている。確かに、各社の1on1導入の直接の経緯は異なるであろうが、ほとんどの場合が上記の背景につながっている。

日本での1on1の嚆矢として、2017年に出版された『ヤフーの1on1』(本間浩輔著、ダイヤモンド社。2025年に増補改訂版)がある。このような先を行く取り組みが世に知らしめられ、課題感を持っていた多くの企業が1on1の導入に踏み切った。
しかし、結果として1on1をうまく導入できた企業は少なく、様々な失敗事例や不満が世にあふれる結果となっている。なぜ導入するかの意味や意義が浸透できておらず、制度的な支援も整わない中で、追加の負荷でしかない1on1が徒労と不満を生み出すだけとなってしまっている。

1on1がうまくいかないさらなる理由としては、1on1を実施する側である管理職側の体制が整っていないことも挙げられる。具体的には、時間とスキルの不足である。働き方改革の進展によって労働時間の制約が明確かつ厳しくなり、プレイングマネジャー化が進み多忙化する中で、管理職が追加の負荷となる1on1を行う時間的・精神的な余裕は乏しい。

加えて、これまでに自分が経験したことがなく、十分な知識やスキルに関するトレーニングも受けないままでは、うまくいくはずはない。本来は、傾聴、観察、質問、フィードバックなどのコーチングのスキルがあってこそ1on1(あるいは、管理職コーチング)はうまくいくものである。

AIコーチングによる管理職の支援・代替

そこで、AIコーチングが悩める管理職の救世主となりうるかもしれない。AIの進歩のスピードは目を見張るものであり、既に人間のコーチとAIのコーチで成果が同程度であるという調査結果も報告されている。時間的・精神的余裕のない社内の管理職にトレーニングをした上で1on1に時間と労力を費やしてもらったり、外部の熟練したコーチに依頼したりするよりも、AIコーチングを活用する方がよほど現実的な状況になってきている。

このことは必ずしも「AIによって管理職が不要になる」ことを意味しない。人間である管理職とAIのそれぞれにメリットも課題もある(下表参照)。単純に「完全にAIによって人間が代替される」と考えるのではなく、「AIによる支援を受ける」や「一部の業務はAIに代替してもらう(そして、人間はそれ以外の業務に注力できる)」と考えるのが、まずは良いだろう。

本連載では、具体的にどのような取り組みがあるの かを紹介しながら、その意味するところや今後の方向性を探っていきたい。

生産性新聞2025年10月15日号:「組織におけるAIコーチング第1回」掲載分
登場人物の所属・役職は新聞掲載時のものです

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