AIコーチング・サービス「CoachAmit」と導入事例
連載第1回では、1on1ミーティングの導入をはじめとしたコーチング型のマネジメントやリーダーシップがうまく機能しない状況を、AIコーチングの支援・代替により打破できる可能性に言及した。第2回では、コーチングについて確認した上で、AIコーチング・サービスのひとつである「CoachAmit」とその企業での導入事例を紹介する。管理職がAIコーチングを受けることで、意味や意義の浸透や管理職のスキルに関する課題の解決を試みた事例である

コーチングとは
具体的な紹介に入る前に、まずはコーチングについてその定義や概要を簡単に確認しておきたい。国際コーチ連盟によれば、コーチングとは、「思考を刺激し続ける創造的なプロセスを通して、クライアントが自身の可能性を公私において最大化させるように、コーチとクライアントのパートナー関係を築くこと」とされている。「対話を重ね、クライアントに柔軟な思考と行動を促し、ゴールに向けて支援するコーチとクライアントとのパートナーシップ」を意味するという。
クライアントと呼ばれるコーチングを受ける人を中心に据え、答えを与えるのではなく、質問を通してクライアントから答えや気づきを引き出す。コーチの語源は「馬車」であり、そこから派生して「大切な人をその人が望むところまで送り届ける」との意味があるという話を聞いた人も多いだろう。
ティーチング、メンタリング、カウンセリングなどと対比されたり混同されたりすることも多いが、双方向的であること、答えを与えず質問すること、指導や助言をしないこと、心身の健康な人を対象とすること、などがコーチングの特徴である。傾聴、質問、承認などのスキルが求められる。
本連載が対象とする管理職コーチングは、個人の成果、個人の学習、個人とチーム(職場)の開発などを目的としており、「部下の仕事におけるパフォーマンスを改善させることを目的として、マネジャーが1対1で部下にフィードバックやガイドを提供し、個人とチームに影響を与える活動」と定義される(『管理職コーチング論』、永田正樹著、2024年、東京大学出版会)。

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AIコーチング・サービス「CoachAmit」
「CoachAmit」は、エグゼクティブ・コーチング・ファームであるコーチ・エィが提供するAIコーチング・サービスである。2023年からサービスを開始している。AIコーチング・サービスは、人が実施するコーチングと比較して、大多数の人へのコーチングの提供が可能になる。
「CoachAmit」のサービスでは、大多数の組織メンバーに日常的かつ継続的にコーチングを実施することで、組織のありたい姿に向けてかつてないスピードで変革を実現する。
具体的には、①組織変革テーマと個人目標の設定、②AIコーチングで週次セ ッション・日次リフレクション、③匿名でセッション内容のビッグデータ化、④レポートで組織課題を見える化というステップを踏む(下図参照)。組織のメンバーは各自で設定した目標を意識しながら、組織変革テーマに沿ってAIとの対話を行うことで、自己内省や行動変容が促進される。また、AIとの対話の内容を匿名でビッグデータ化し、組織で起きているリアルな状態や変化を可視化でき、組織はそのレポートから今取るべき対応を把握することができる。

「CoachAmit」では、デバイス上でテキストまたは音声を入力し、AIと対話をしてコーチングを受けることになる。AIからの問いかけを通じて、自分自身の前提や価値観に触れて自己内省を起こすものである。「CoachAmit」には、30分間の「コーチングセッション」と、5~10分の短時間から利用できる「オープンセッション」という2種類のセッションがあり、いつでも自由にセッションを受けることができる。
30分間の「コーチングセッション」では週1回、組織改革に向けた対話のテーマに沿ってコーチングを受けることができる。組織改革に向けた気づきや行動変容につながるように、1カ月ごとにカテゴリーが設定される。例えば、「目標、ビジョン、パーパス」、「関係性、コラボレーション」、「リーダーシップ」、「対話」、「コミュニケーション」、「コーチングスキル」などのカテゴリーである。これらのカテゴリーに基づいて各週のテーマが設定される。

「オープンセッション」は、より個人的な業務課題や悩みといったテーマを自由に持ち、その日に意識・行動する(した)ことを素早く整理したり、自分の感情を言語化したりすることで、思考の整理につながる。
「CoachAmit」の提供価値は「自ら考える人を作る」ことである。クライアントである組織メンバーは、「CoachAmit」から様々な問いかけを投げかけられることで、内省を習慣化し言語化能力が向上し、目標に向けた行動が促進される。組織全体としては、コーチングが定着することで、ビジョンや戦略などを浸透させやすくなり、組織変革や課題解決の推進や現状の見える化が可能となる。

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企業での導入事例~千葉興業銀行
具体的な「CoachAmit」の導入事例として、千葉興業銀行の事例を見ていきたい。同行では「コンサルティング考動実践」を掲げて顧客の課題への対応を進めており、人材育成戦略でめざす人材を『「学習」「共感」「自律・協働」する人材』としている。
そのような人材を育成するために、経験学習理論も参照しながらOJTを、相手の「自律・協働的に成長する力」を育むために、①仕事機会の提供、②教える、③振り返り支援、④承認またはフィードバック、という四つのサポートを行うものと再定義した。
すると、①や②については、経験豊富な行員が、その知識やノウハウ、スキルを部下や後輩に教えるレベルが高水準であり、強みとなっていることが分かった。一方、③と④については、上司側がそれらをしてもらった経験が乏しく、必要性、メリット、やり方が分からないので、質の向上の余地があるのでは、と考えた。
そこで、上司側がコーチングを受ける経験をし、それを活用して部下育成をしてもらうという対応策を立てた。その際に、大多数への提供が実現可能なAIコーチング・サービス「CoachAmit」に目を付け、2024年から導入している。同行のニーズと「自ら考える人を作る」という「CoachAmit」の提供価値が合致した形での導入であった。
次回は、千葉興業銀行の取り組みの全体像や他に導入しているAIコーチングのサービスを詳しく見ていきたい。

(わかばやし・たかひさ) 東京大学経済学部卒業、同大学院経済学研究科修士課程修了・博士課程単位取得退学。高崎経済大学講師などを経て2017年から現職。専門は、経営学、組織論、教育工学。第5回リンダウ・ノーベル賞受賞者会議(経済学分野)参加。金融庁公認会計士試験試験委員(2024年度から)。著書に『地域を変革するリーダーシップの展開』(日本経済評論社)など。NPO法人日本アクションラーニング協会認定シニアALコーチ(チームコーチングの一手法)としても活動。

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生産性新聞2025年10月25日号:「組織におけるAIコーチング第2回」掲載分
登場人物の所属・役職は新聞掲載時のものです