DEI(ダイバーシティ・エクイティ・インクルージョン)とは~日本企業はどう取り組むべきか

昨今、DEIは日本の職場にも浸透してきましたが、その一方、海外ではその推進を見直したり止めたりする動きも現れ、DEIの意義や推進の是非があらためて問われています。    
そこで本記事では、DEIの基本的な定義や互いの関係を整理したうえで、日本企業の文化的特徴との関係を捉え直し、日本に合った実践の方向性を考えます。

DEI(ダイバーシティ・エクイティ・インクルージョン)の定義

ダイバーシティ(Diversity:D)は、「多様性」と訳され、異なる属性を持つ人々が存在することを指します。性別、国籍、年齢に限らず、価値観や経験の違いも含まれます。ただし、単に多様な人が存在するだけでは組織の成果には必ずしも結びつきません。

エクイティ(Equity:E)は、「公正性」と訳され、手続の公正さ(手続き的公正)を指します。すべての従業員が対等に扱われていると感じられ、評価基準が透明で、意見を述べる機会が均等に与えられている状態です。
例えば、男性だけが重要な仕事を任されるような、属性による有利不利が生じることなく、差別のない環境をつくることが重要です。

エクイティは平等を意味するEquality (イクオリティ)と混同されがちですが、こちらの図で説明します。

イクオリティは、一人ひとりの違いを特に考慮せず、全員に同じ機会を与えることを言います。 そのため、上の図ではサイズが合わない人にとっては、前へ進むことが困難なように見てとれます。
一方で、下の図では個性に合わせた自転車が用意され、全員が前へ進むことができます。
エクイティは結果の平等ではなく、制度や機会に対する公正な提供、公正なチャレンジを担保するための考え方です。

インクルージョン(Inclusion:I)は、「包摂性」と訳され、多様な従業員が自分の独自性を発揮でき、「必要とされている」と感じ、等しく関与できている状態を指します。日本生産性本部と東京女子大学の正木郁太郎准教授が行ったDEIに関する調査*1では、インクルージョンが高い組織は心理的安全性が高く、従業員が主体的かつ利他的に行動し、離職意図が低くなることが分かっています。

*1 日本生産性本部と東京女子大学の正木郁太郎が行ったDEIに関する調査
実施時期 2025年11月、調査対象者 N = 1,500 
従業員数100人以上の民間企業に勤務する正社員・正規雇用者
性別と年代の組み合わせで回答者を均等に割付

D・E・Iそれぞれの関係性

上記の調査からはダイバーシティ、エクイティ、インクルージョン(D・E・I)の3要素が独立していることが明らかになりました。特にエクイティとインクルージョンは強く相関していますが、ダイバーシティは別軸です。

D・E・Iの3つの指標間の相関係数

多様性を高めても心理的安全性や信頼関係がなければ、むしろ負の効果が生まれます。組織内の対立が増加し、従業員が発言しづらくなり、情報が部門ごとに囲い込まれ、離職意図が上昇するのです。
これは、異なる背景を持つ人が集まっても、信頼関係がなければ、その違いが対立に変わってしまうためです。

職場で良く起きている例として、以下のようなケースがあります。

ケース1:「異動したばかりだから」「若手だから」という理由で発言の機会をもらえない
     → これはエクイティが欠けています。
ケース2:「上司と意見が違うので発言しづらい」
     → これはインクルージョンが欠けています。
ケース3:「ダイバーシティ施策で女性管理職が増えたが、実感として働きやすくなったと思わない」
     → ダイバーシティだけが高まり、エクイティとインクルージョンが伴っていない状態 です。

調査結果から、エクイティとインクルージョン(EI)が高い組織では、組織や個人の状態と行動に関する、多くの代表的な成果指標がプラスになることがわかりました。
主に、「組織エンゲージメント向上」、「従業員の主体的行動の増加」さらに、「チーム内の利他的行動」が促進され、変化への対応力が高まり、心理的安全性が飛躍的に向上します。
つまり、ダイバーシティ(D)を高めることもたしかに重要ですが、それとは別軸として、エクイティとインクルージョン(EI)を高めることが、個の力を組織の力に変える第一歩なのです。
このことは、多様性が高い組織はもちろんのこと、「まだ自社では多様化が進んでいない」という組織でも効果的な取り組みになります。

日本企業の文化とDEIの関係

では、日本企業がエクイティとインクルージョン(EI)を高めていくにあたって、日本企業の文化的特徴はどのような影響を与えるのでしょうか?
そもそも、DEIは海外で生まれ発展してきた考え方です。そのため、DEIを日本企業にそのまま当てはめてもよいのか、もしくは、日本企業に合ったDEIとは何かを考える必要があります。ここでは、調査から明らかになった「日本企業の文化とDEI」の関係について見ていきます。

① 相互協調性
「従業員は互いに支え合って働く」「集団の和が優先される」という文化であり、この文化が機能している職場では、信頼関係と利他的行動が自然に生まれます。

② 包括的思考
「特定の個人の利益ばかりではなく、組織や職場全体にとって良いことや、全体最適を考える」という文化であり、この文化が機能している職場では、多様な人たちが参加しやすく、かつ組織のまとまりも維持しやすい環境になります。そして、従業員の組織への愛着度、つまりエンゲージメントが向上するのです。

③ ボトムアップ
「現場の考え方などが重視され、ボトムアップやすり合わせで物事が進む」という文化であり、この文化が機能している職場では、心理的安全性が高まり、様々なアイデアが組織全体で共有されます。

一方で、日本企業の弱点もあります。 それが、「不確実性回避」です。
「確実でない状況は避けたい」「前例がないことには慎重になる」「徐々に改善されることを優先する」
これを、不確実性回避と言います。
そしてこの傾向が強いと、何が起きるか?
「前例がないから」という理由で判断が停止してしまい、変化への抵抗が強くなります。 つまり、新しい人材や新しい考え方を受け入れるのに、時間がかかってしまうということです。

調査結果から、日本企業は2つのタイプに分かれることが明らかになりました。

① 硬直的な日本型企業
日本的な強み(相互協調、包括的思考、ボトムアップの3文化)を持ちながらも、不確実性回避が非常に強く、ルールや前例を重視する傾向がある企業タイプです。この場合、「EI」指標が低く、心理的安全性が欠落しています。

② 柔軟な日本型企業
同じく日本的な強みを保ちながらも、不確実性回避は低く、変化を恐れず柔軟に対応できます。驚くことに、このタイプの企業では、すべての成果指標において優れた結果が出ており、生産性も心理的安全性もすべてが上回るのです。
つまり、日本企業の強みを活かしながら、不確実性回避から脱却して柔軟に変化に対応することが重要です。「良いところは活かし、改善すべきところは改善する」という姿勢が不可欠です。

「EI」向上のための3つの基盤とは

1.インクルーシブ・リーダーシップ

調査から、「EI」を高めるための3つの重要な基盤が見えてきました。その1つ目が、インクルーシブ・リーダーシップです。
従業員の「EI」にとって、会社の制度の影響ももちろんありますが、従業員にとっては、日々仕事で接する上司の影響も無視できないようです。求められる要素は、以下の3点が挙げられます。

① 多様な価値観への理解と尊重
部下の異なる背景や価値観を知ろうとし、「違い」をチームの強みとして歓迎し、議論や意思決定に活かす姿勢です。
「違い」を否定しないだけでなく、少数派の意見や異論を積極的に歓迎し、意思決定や議論に組み込みます。

② メンタリング(部下の成長に向き合う)
答えをすぐに教えるのではなく、「どう思う?」「他には?」と問いかけて自ら考える力を育てます。あわせて、発言の場や必要な情報へのアクセス、挑戦の機会といった成長機会を、立場や属性にかかわらず公平に与えます。

③ 対人配慮(相手の気持ちを理解する)
部下の悩みや困難に耳を傾けて共感しつつ、行動や成果については率直で公正なフィードバックを行います。失敗を責めるのではなく、「次にどう活かすか」を一緒に考えます。

このリーダーシップが高い上司のもとでは 、心理的安全性が高く、部下の主体的行動・利他的行動が増え、 エンゲージメントも総じて高くなります。
さらに、この3つの要素は、日本企業の「相互協調的思考」「ボトムアップ文化」と非常に相性がいいのです。「相手を信頼する」「相手の成長を応援する」という姿勢は、日本企業の文化の中に、もともと根付いています。
特に、「柔軟な日本型企業」では、このインクルーシブ・リーダーシップが自然と機能している傾向が見られました。上司がすべてを管理し、自らリードするだけがリーダーシップではなく、むしろ一人ひとりの従業員の強みを引き出して、「どうすれば頑張ってもらえるか」を考えることが、多様なメンバーがいる組織では重要といえます。

2.シビリティ

シビリティは、礼節と訳されます。その反対は、インシビリティといい、無礼な態度を意味します。
シビリティとDEIの関係についても調査を行った結果、「やってはいけないことを避ける」だけでなく、「望ましい行動を積極的に促進する」ことが、「EI」向上に有効だとわかりました。

例えば、ハラスメントやアンコンシャスバイアスへの対策では、「〇〇するな」「〇〇を無くそう」という表現が多く使われます。ネガティブな行動を減らすことに焦点を当てることは重要ですが、組織として強調しすぎると、加害者・被害者の構図になり、やった、やっていないなどの水掛け論につながる恐れや「そもそも関与しなければいい」という発想に至り、コミュニケーションの停滞や関与し合わない冷たい職場風土につながり、結果としてインクルージョンが遠のきます。

一方で、シビリティといったポジティブな行動を強化することが、より重要であることがわかりました。
「上司や同僚に対して、ねぎらいや感謝をしっかり示す」「相手を尊重する言葉がけをする」などのポジティブ行動が高い職場では、エンゲージメント、心理的安全性、利他的行動が高まり、関係コンフリクトが低くなります。
つまり、感謝と承認の行動が組織全体に満ちることで、心理的安全性が高まり、利他的な行動が増えるのです。

3.自己開示

最後の基盤が、「自己開示」です。
自己開示とは、上司と部下、同僚同士が、自分の考え・判断基準・気持ちを率直に伝え合うことです。
具体的な取り組みとしては、以下の3点が挙げられます。

① 仕事の判断基準を共有する
上司が、「この判断で大切にしていることは〇〇だ」と、自分の価値観を部下に伝える。

② 相手の立場に立つ
自分の意見だけでなく、「相手はどう感じているのか」を考える。

③ 対話の場を定期的に設ける
上司との1対1(1on1)面談やチーム対話を習慣化する。

このとき、制度とすることは必須ではありません。制度の有無にかかわらず、定期的な対話があることが重要だということも調査でわかりました。自己開示が増えると、「自己開示が増える → 相互理解が深まる → 信頼関係が強化される → 心理的安全性が向上する → さらに自己開示が増える」という好循環が生まれるのです。

その効果として、自己開示の水準が高い個人は、心理的安全性・信頼感・所属意識が高く、利他的行動・主体的行動が増えることがわかりました。
そして、より重要なのが、上司からの率先的な自己開示です。上司が「わかりません」「失敗しました」と言える環境をつくることが、チーム全体の心理的安全性を高めます。
部下は、「そうか、上司もわからないことがあるんだ」と感じ、自分も素直に失敗や不安を口に出せるようになるのです。

DEIは海外で生まれた考え方ですが、日本企業が持つ3つの強みを活かし、不確実性回避を乗り越えながら、エクイティとインクルージョンを職場で育てることが、個の力を組織の成長へつなげる鍵です。

執筆者:日本生産性本部 コンサルティング部 中川 達也 

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