まとめ
・属人化は、ある業務やサービスが個人の能力に依存している状態。
・業務が属人化したままでは、採用した人材が定着しにくく、業務支援システムを導入しても効果は限定的。
・本稿では、属人化の対策として「業務プロセスの見直し、標準化」の有効性を科学的な知識と業務仕組み化プログラムによる支援事例に基づき説明。
属人化とは?:その背景と理由
属人化は、ある業務やサービスが個人の能力に依存している状態を指す言葉で、ビジネスにおいてしばしば使われる言葉です。属人化は特定の人にサービスや業務が依存している点で持続可能性が低く、問題視されることがあります。具体的には以下のような事象です。
「ある従業員のサービスが顧客から好評ですが、他の従業員へと横展開できない」
「職場で、ある人にしかできない仕事があり、その人がいなくなると混乱が生じる」
「担当者ごとに独自の工夫を積み重ねており、担当者が変わると仕事の方法が変わる」
属人化が生じる理由を理解するためには、人の知識が複雑であり、多様な側面があることを学ぶ必要があります。人の知識には、言葉や文字で表現しやすい側面と、それらで表現しにくい側面があります。この知識の2つの側面は氷山に例えられており、言葉や文字で表現しやすい側面は氷山の一角にすぎず、水面下には言葉では表現しにくい巨大な知識が存在しています(下図)。言葉や文字で表現しにくい知識を豊かにすることで素晴らしい活躍ができる一方、その活躍に貢献した知識を他人に伝えることは難しくなります。

言葉で表現しにくい知識の特徴は、たとえば以下のようなことが挙げられます。
本人も「なぜできるのか」を説明できない:人は経験を積むと、無意識のうちに仕事が速くなり、質も向上します。しかし、「なぜパフォーマンスが上がったのか」「具体的にどのような考え方、方法が効果的なのか」を言葉で説明してほしいと求められても、うまく答えられません。これは自転車の乗り方と同じで、体で覚えているものだからです。
原因と結果の関係があいまい:「このような言い回しをすると、顧客が納得してくれる」という「結果」は出ています。しかし、「なぜそのやり方が良い結果につながるのか」という「原因」が、本人自身もはっきりとは理解できていません。理由が分からないことを他人に教えることは困難です。
仕事が上達していくと、言葉で表現しにくい知識も増えていきます。誰かが生み出した知識を他の誰かも実践できるようにする組織的支援がなければ、属人的な業務も増えていきます。次は、属人化のメリット・デメリットについて説明します。
属人化のメリット・デメリット
属人化による好影響の一つに、熟練した担当者による「柔軟な対応」が考えられます。その担当者だからこそ対応できること、顧客の複雑な要望に対しても能力と裁量で対応できることは、高い顧客評価を得られると考えられます。また、担当者本人にとっても「これは自分にしかできない仕事だ」という誇りにつながり、働きがいの源泉になります。
一方で、属人化の悪影響として、品質管理が困難になることが考えられます。特定の担当者が退職または休職したときに、業務が滞り、顧客対応の品質が低下します。個人の経験をルーティンや文書として組織に定着させなければ、人の入れ替わりによって組織の知識は失われてしまいます。さらに現代の企業にとっての問題として、新しい人材の定着やDXなどの変革を阻害しうる点も挙げられます。属人化した業務の多い職場では、業務方法が標準化されていないため、新たに入社した社員に対して体系的な教育ができません。「教える人によって言うことが違う」「標準がないため、その都度先輩の顔色を伺って聞かなければならない」という状態が生じます。さらに、業務プロセスがよく分からない状態では、「どこにAIやシステムを導入すれば効率化できるのか」を客観的に判断することも困難です。
属人化は「個人の頑張り」に依存するがゆえに、いずれ限界を迎えます。この属人化の悪影響は、採用した人材がすぐに辞めてしまう問題や、システムを導入したにも関わらず期待したほど効率化が進まない問題にまでおよびます。また、人手不足により欠員状態が続く組織にとっては、人手不足対策として人材定着や業務支援システム等の導入を進める上で、属人化への対策も検討する必要があります。
本稿では、属人化の悪影響を防ぐための考え方として、「業務プロセスの見直しや標準の作成(マニュアル化)」がなぜ必要なのかを整理します。以下では、まず「人材が定着しない理由」を役割の明確さの観点から整理し、次に「業務支援システム等の導入効果が出にくい理由」を業務プロセスの観点から説明します。そして、属人化への対応として業務プロセスの見直しやマニュアル作成がなぜ有効なのかを説明し、「業務仕組み化プログラム」によって売上を向上させた企業事例を紹介します。
人材が定着しない背景には「役割の不明確さ」がある
「採用しても、なかなか定着しない」と感じている方は少なくないかもしれません。しかし、その原因を本人のやる気だけに求めると、問題の本質を見誤る可能性があります。人材定着の要因を研究した学術論文(Bauer et al., 2007)によれば、新しく配属された社員が定着するかどうかは以下の3つの要因が重要だとされています。
・役割の明確さ: 自分が何をすべきかを理解できているか
・自己効力感: 「自分にはできる」という手ごたえがあるか
・社会的受容感: 職場に居場所があると感じられるか

社員定着の3つの要因:Bauer et al.(2007)を参考に作成
社員が早期に離職する要因のうち、本稿と特に関係が深いものは「役割の明確さ」です。つまり、入職した社員が「自分はこの会社で何をすればよいかわからない」という状況に置かれることで、離職リスクが高くなると考えられます。「役割の明確さ」が重要な理由としては、役割や手順が曖昧なままでは、不安が高まり、仕事の手応えも得にくくなるからです。したがって、マニュアルによって社員の役割と手順を明確にし、安心して仕事に取り組める環境を整えることで、結果的に離職リスクを低減できると考えられます。
この「業務が標準化されていない」という問題は、人材の定着だけでなく、業務改善やDXの失敗にもつながります。
なぜ業務プロセスを見直さない業務支援システム導入は失敗するのか?
多くの識者は、現在の業務プロセスを見直したうえで、DXやRPAなどのテクノロジーを活用した仕組みづくりを進めることを推奨しています。しかし実際には、業務プロセスを見直さないままテクノロジーを導入してしまうケースが少なくありません。
たとえば、サービス業に限らず、製造業の現場でも同様のことが起きています。以前からの顧客要望に応じて資料を作成・提出していた拠点において、DXプロジェクトが立ち上がり、資料作成業務も対象になりました。しかし、結果として期待したほどの効率向上にはつながりませんでした。関係者でプロジェクトを振り返ったところ、そもそも顧客に提出する資料が本当に必要であったのかを検討するプロセスが抜けており、付加価値のない業務まで仕組みに取り込んでしまった可能性があるということでした。
「業務プロセスを見直さないままテクノロジーを導入してしまう失敗」は、歴史上何度も繰り返されており、学術的にも批判されてきました(Hammer, 1990)。1990年代にも、手作業中心のビジネスプロセスを、コンピューターを使った効率的なプロセスへと変革する取り組みが注目されていました。しかし当時も、ビジネスプロセスを見直すことなく、現行のプロセスをそのままテクノロジーで置き換えたため、生産性や効率性が向上しないという失敗例が報告されました。
マニュアル更新のためには何が必要か?その背景やノウハウを解説 ↓
なぜ「業務プロセスの見直しと標準化」が有効なのか?
人手不足の中でも成果を出すには、より良く、より無理のない業務プロセスを定め、それを人が入れ替わっても再現できるようにすることが重要です。現代だからこそ活用できるテクノロジーを用いて業務プロセス自体を見直すことで、より生産性の高い方法を特定しやすくなります。そして、そのような方法を拠点間で共有し、全社的に展開するうえで、マニュアルが役に立ちます。
特に、現場で実際に使われる質の高いマニュアルには、次のような特徴があります。
・業務を学びやすい
・プロセスが体系化されている
・業務に要する時間を把握しやすい
・成果の定義が明確である
より良い業務プロセスを定め、それをマニュアルなどの形で残すことで、人が入れ替わっても「優れた業務プロセス」を再現しやすくなります。その結果、人手不足の状況下でも生産性を高めやすくなります。
「マニュアルに従えばよい」という状態は、言い換えれば、毎回業務の進め方を一から考えなくてよい状態です。これは、現場の負担軽減に直結します。たとえば、料理のレシピを思い浮かべてみてください。初めて作る料理は、食材の量や手順を考えながら進めるため、時間もかかり、仕上がりもばらつきが生じます。しかし、レシピが定まっていれば考える手間が省け、味も安定します。業務のマニュアル化も、これと同じです。
業務の進め方が整理され、共有されていれば、仕事の再現性が高まり、教育もしやすくなります。結果として、属人化が減り、人手不足のなかでも業務を回しやすくなります。

属人化対策としての「業務改善」の順番・ステップ
属人化への対策として業務改善を進めるうえでは、次のステップが重要です。
・業務を可視化する
・不要・重複業務をやめる
・標準手順を決める
・マニュアル化する
・教育・改善提案の仕組みを作る
・そのうえで業務支援システム等を導入する
業務の仕組みを整えることは、必ずしも特別な投資を必要とするものではありません。まず大切なのは、今ある業務を見直し、整理し、誰もが同じように動ける状態をつくることです。採用だけでは人手不足を解決しにくい時代だからこそ、現場が回る仕組みそのものを整える必要があります。業務プロセスの見直しとマニュアル化は、そのための現実的な第一歩といえるでしょう。さらに、標準化によって対応品質のばらつきが減り、顧客にとっての安心感が高まる効果も期待できます。そして、上記のプロセスを実践する際には、顧客にとっての「当たり前品質」を安定させることを重視しつつも、例外対応や価値創出の場面には裁量を残すことも検討します。
事例:業務基準書(マニュアル)の整備で一人当たり売上が向上したA社
業務仕組み化プログラムで支援したA社の事例を紹介します。A社は従業員数300名以下の企業で、サービスの高度化・複雑化への対応と、従業員の効率性向上に取り組んでいました。A社は、「業務基準書」と呼ばれるマニュアルを作成・活用することで、従業員がより多くの顧客を訪問できるような方法を定着させようとしました。例えば、ある事業所で従業員の訪問件数を向上させた好事例を分析し、他の事業所でも実践できるように標準的な方法を作成して従業員に展開した結果、1人当たりの売上は前年同期比12%増となりました。また、1人当たりの売上が向上した背景として、従業員の稼働率(「利用可能な時間に対する顧客訪問を行った割合」)が前年同期比で7ポイント向上していたことが挙げられます。
このように「業務仕組み化プログラム」は、業務プロセスを見直し、より良い標準を誰もが実践できるよう支援します。より良い標準を定めることで、A社のように業績向上を果たすことは可能だと考えられます。ただし、注意が必要なことは、マニュアルを作成・配布するだけでは高い成果につながらない点です。従業員がマニュアルに基づき行動を変え、自ら改善を試みることで高い売上に結びつきます(舩先ほか, 2026)。この仕組みを機能させることが支援の中核です。

▼ あなたの職場はいくつ当てはまりますか?(チェックリスト形式)
□ 担当者が変わると仕事の品質が変わる
□ 新人教育に一貫したやり方がない
□ AIや業務支援システムを導入したが期待ほど効果が出ていない
□ 採用しても定着しないことが多い
□ 業務の全体像を把握している人が限られている
3つ以上当てはまる方は、業務仕組み化プログラムの無料説明会への参加をお勧めします
参考・引用文献
・Bauer, T. N., Bodner, T., Erdogan, B., Truxillo, D. M., & Tucker, J. S. (2007). Newcomer adjustment during organizational socialization: A meta-analytic review of antecedents, outcomes, and methods. Journal of Applied Psychology, 92(3), 707–721.
・Hammer, M. (1990). Reengineering work: Don’t automate, obliterate. Harvard Business Review, 68(4), 104–112.
・舩先康平・菊池隆一郎・土居義典・半田祐樹(2026).マニュアルと従業員の熟達,適応,プロアクティブ行動はどのように相互作用してルーティンの有効性に影響するのか:fsQCAを用いた訪問リハビリサービスの事例研究.サービソロジー論文誌, 10(3), 1–12.
執筆者:日本生産性本部 顧客価値創造センター 舩先 康平(博士 社会工学)・田中あかり