優秀賞・審査員特別賞 医療支援プラットフォーム

日本最大級の医療支援プラットフォーム「ファストドクター」で、第5回日本サービス大賞の優秀賞と審査員特別賞をダブル受賞したファストドクター代表取締役の水野敬志氏は、生産性新聞のインタビューに応じた。コロナ禍で脚光を浴びた医療支援プラットフォームが、AI時代でも医療を取り巻く社会課題の解決に向き合い、その役割をさらに進化させる決意を示した。

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自宅医療の選択肢提供
勤務医として救急医療に携わっていた代表取締役の菊池亮氏と水野氏の2人が立ち上げたファストドクターは、医療リソースの集約と、医療提供プロセスのDX・AXによって、効率的で再現性のある医療提供モデルを構築する医療支援プラットフォームを運営している。約5000人の登録した医師が活動し、全国の医療機関と提携しながら、受付・トリアージ・診療支援・診療報酬算定までの一連のプロセスを統合した支援体制を構築する。生活者のほか、医療機関・自治体・企業などに幅広く活用されている。
医師の偏在は、医療をめぐる大きな社会課題になっている。水野氏は「東京都内では、すでに医師は供給過剰になっている。一方で、地方部や夜間・休日といった時間帯には受診できる医療機関が極端に少なく、アクセスが悪くなる。創業当時、都内のクリニックで24時間受診できるのは1カ所しかなかった」と話す。
夜間・休日に対応する救急病院では、軽症の患者も重症の患者も押し寄せている。「救急の医師は、ベルトコンベアーのように送られてくる軽症の患者と重症の患者を次々と診察し、疲弊している」という救急病院の現実に直面した。
パンク状態の救急病院の負担を軽くするために、ファストドクターは往診やオンライン診療など、自宅で医療を受けるという新たな選択肢を提示した。

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トリアージで負担軽減
ファストドクターの重要な役割の一つに、「トリアージ」がある。災害や事故などで多数の傷病者が同時に発生した際、限られた医療スタッフや医薬品で「一人でも多くの命を救う」ために、重症度や緊急度に応じて治療や搬送の優先順位を決定することを指す言葉だ。医療の需給がひっ迫する状況では、災害時でなくても、「トリアージ」の役割が極めて重要になる。不安を抱えた患者が相談する中で、自宅での往診やオンライン診療でも対応が可能であることを説明し、適切な選択肢を提示する。緊急性がある患者には救急病院を勧めるほか、医師が救急病院で受診するように指示し、紹介状を書くこともある。
「病院前医療の機能を強化することが課題解決の鍵になる。平日や日中はかかりつけ医が機能しているが、夜間・休日は休日診療所しかなく、受け皿が不足しているからだ」。
ファストドクターの強みは、医師をネットワーク化し、夜間・休日も含めて24時間対応可能な体制を作っていることだ。この強固なネットワークを持ったプラットフォームを活用し、医師偏在・不足が進む地域でも、限られた医療リソースの負担を軽減しつつ、地域の医療アクセスを補完・強化する。夜間・休日を含めて「必要なときに適切な医療につながれる環境」を実現している。

質担保へ独自システム
医師をネットワーク化する中で苦心したのは医療の質の担保だ。日本では医療の質に関する定義がないため、自社で指標を作り、定量化・モニタリングする体制を構築した。患者の同意を得て、オンライン診療を録画して、処方の適正性や患者に対する説明のプロセスやコミュニケーションなどをチェックする仕組みだ。「簡単なアンケートで患者の満足度を測るだけでは不十分で、診療を可視化して、品質を高めていくことに投資をしてきた」。
さらに、医療の中に「生産性」という観点も取り入れた。医師は雇用契約であり、稼働率をどう高めていくかは重要だ。例えば、往診の場合、診察時間と移動時間をトラッキングし、時間がかかりすぎていれば、コールセンターから医師に状況を確認する。
「AIを活用して移動時間を30%短縮するなど、稼働率を高めている。しかし、単純に稼働率だけを高めてもだめなので、医療の品質と生産性向上を両立させるように工夫している」。
また、コロナ禍の初期は「人々の活動が止まって、世の中から病気がなくなったかのようになり、経営危機に陥った」という。その後、陽性患者が増えて、何度も感染の波が押し寄せた。ファストドクターは自治体と連携し、往診に対応するなど、社会になくてはならない存在になった。
コロナ禍を経て、「救急病院に駆け込むだけが正解ではない」と患者の意識が変わった。国や医療機関もパンデミックに備えて、トリアージなどの病院前機能を強化し、救急医療は重症な患者にフォーカスすべきとの考えが強まった。
AI時代の医療へ進化
今後は、病院前の司令塔となるかかりつけ医機能を、ファストドクターがどう補完できるのかが問われている。「生成AIの登場で、病院前機能をさらに効率化させることが技術的に可能になる。医療相談と組み合わせて、自動化されたトリアージ機能を社会実装することに挑戦したい」。また、特定の臓器や疾患に限定せず、患者の全身をトータルで診る総合診療科の整備が、地方などでの専門医の不足を解消するために注目されている。「専門医がいない医療機関で専門性の高い医師のオンライン診療を受診できるようにすることで、総合診療科の機能を持たせることができる。これは、ファストドクターが取り組むべき課題の一つだ」。
20年後の産業構造の変化を見据え、医療の様々な機能をAIが代替する時代が来ると予測している。水野氏は「医療現場に入りながら、医師や看護師とコミュニケーションを取り、テクノロジーと医療現場をつないできた強みを発揮したい」と意欲を示している。

京都大学大学院農学研究科修了後、外資系戦略コンサルティングファーム、楽天(現 楽天グループ)にて経営戦略およびDXの経験を積む。2017年7月よりファストドクターの経営に参画。2018年6月に代表取締役に就任。
生産性新聞2026年7月25日号:「サービスイノベーションの挑戦第11回」掲載分
登場人物の所属・役職は新聞掲載時のものです。