【経済学×生産性の最前線】第3回:社会的価値を可視化

事業・投資 SROIで金額換算

本連載の第3回では、コンジョイント分析を活用したSROIによって、社会的価値を定量的に評価した事例を取り上げます。

見えない社会的価値の測り方

企業の社会的な取り組みを評価する際、CO2削減量や廃棄物削減量のように直接測定できる効果だけでは、その価値を十分に捉えられないことがあります。特に循環型経済の取り組みでは、環境面の効果に加え、地域経済や地域社会に対するさまざまな波及効果が生じます。しかし、こうした効果は市場価格として観察されないため、定量化が難しいという課題があります。

そこで活用されるのがSROI(Social Return on Investment:社会的投資収益率)です。SROIは、事業や投資によって生み出された社会的価値を可能な限り金額換算し、「投入した資源に対してどれだけの社会的価値が生まれたのか」を評価する手法です。近年ではESG投資やインパクト評価の分野でも広く用いられています。

今回エコノミクスデザイン社が支援した事例では、地域で発生するバイオガスを活用し、地域農業と製造業を結びつける循環型の生産・物流システムが構築されていました。この取り組みによって、環境負荷の低減だけでなく、地域農家の生産活動にもプラスの影響が生じています。

ただし、ここで課題となるのが「その価値をどのように測るのか」です。例えば、循環型の仕組みの中で生産された農畜産物、たとえば牛肉や米に対して、消費者が「環境に配慮されている」「地域に貢献している」と感じる場合、その評価は市場での需要や支払意思額の上昇として間接的に表れる可能性があるものの、財務諸表には直接表れません。

コンジョイント分析の活用

SROIでは社会的価値を貨幣価値に換算する必要があります。しかし、消費者が環境配慮や地域貢献にどれほど価値を感じているかは市場データだけでは把握できません。そこで私たちは、消費者の選好を定量化するためにコンジョイント分析を活用しました。

コンジョイント分析は、消費者が商品を選ぶ際に、環境配慮や地域貢献といった特徴をどの程度評価しているのかを定量的に把握する手法で、マーケティング分野などで広く用いられています。これにより、循環型経済が生み出す「消費者から見た付加価値」を金額ベースで推計し、従来は見えにくかった社会的価値を可視化することができる、というわけです。

具体的には、価格やメッセージなど複数の要素を組み合わせた商品案を提示し、その中からどれが選ばれるかをもとに、消費者が各要素をどの程度重視しているかを明らかにします。例えば、「価格」に加えて「環境配慮メッセージ」や「地域貢献メッセージ」の有無を組み合わせて提示することで、消費者がこれらの要素をどのように評価して意思決定しているかを把握できます。重要なのは、こうした一見すると定性的な要素を、価格と同じ基準で比較できる点にあります。その結果、環境配慮や地域貢献といった特徴が、消費者にとってどの程度の付加価値として認識されているのかを明らかにすることができるのです。

消費者の選択から価値を測る

以下では、われわれが実際に行ったコンジョイント分析に近い例として「A5ランクの高級和牛ステーキ(400g)」を想定した調査を説明します。この商品については、環境配慮や地域貢献、安全性といった要素と価格を組み合わせた複数の選択肢を用意し、消費者を想定した調査対象者に提示します。具体的には、

・環境配慮型国産飼料で育てた
・特定地域を応援する
・安全な生産体制
それぞれのあり/なしに加え、
・3種類の価格を組み合わせた商品案です。

調査では、一度に4つの商品案を提示し、それらに対して「最も購入したいものから順に順位づけ」をしてもらいます。単に1つを選ばせるのではなく、順位情報を用いることで、選択の強弱や相対的な評価まで捉えられる点に特徴があります。

この方法で得られた順位データをもとに、各要素が消費者の評価に与える影響を分析するのがコンジョイント分析の応用例です。例えば、ある設問で図にある4つの商品案が提示されたとします。

このような比較を複数の組み合わせで繰り返すことで、「どの要素がどれだけ順位を押し上げるのか」を統計的に評価することが可能になります。さらに、その結果は価格に換算して解釈することもできます。例えば、「環境配慮の表示があることで、順位を押し上げる効果が数百円分の価値に相当する」といった形で定量的に理解できるのです。

従来の意識調査にはない利点

コンジョイント分析の利点は、消費者が実際に行うであろう選択に近い形で、意思決定を観察できる点にあります。単なる意識調査では「環境に配慮した商品を支持する」と回答されても、実際の購買場面では価格が優先されることも少なくありません。順位付けという形式でトレードオフを明示的に捉えることで、このギャップを含めた現実的な評価が可能になります。さらに、複数回ランダムに提示した商品案からの選択結果を通じて一貫した傾向を抽出できるため、偶然の回答ではない安定した選好も把握できます。

重要なのは、環境配慮や地域貢献といった社会的価値が、必ずしも「定性的なもの」にとどまらない点です。コンジョイント分析を用いることで、それらが消費者にどの程度評価され、どれだけの支払意思額につながるのかを定量的に把握できます。これは、従来は把握が難しかった社会的インパクトを貨幣価値として捉える試みであり、SROIの考え方とも親和性の高いアプローチだといえるでしょう。

見えない価値の可視化のために

循環型経済や地域共生の取り組みは、環境負荷の低減だけでなく、地域産業の活性化や消費者価値の向上といった多面的な社会的価値を生み出します。しかし、その多くは従来の会計指標だけでは十分に捉えることができません。SROIは、こうした「見えにくい価値」を可視化するための有効な枠組みです。そして今回紹介したコンジョイント分析のように、マーケティング分野で培われた既存の学知も活用次第で社会的価値の定量化に大きく貢献します。異なる分野の知見を組み合わせながら、これまで見えなかった社会的価値を可視化していくこと。それこそが、これからのSROIやインパクト評価に求められる役割なのかもしれません。

生産性新聞2026年6月25日号:「経済学×生産性の最前線」第3回掲載分
 登場人物の所属・役職は新聞掲載時のものです

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