地方創生大臣賞 ニッポン手仕事図鑑(東京都)

後継者不足の伝統産業と職人を志す若者をつなぐ「後継者インターンシップ」で、第5回日本サービス大賞地方創生大臣賞を受賞したニッポン手仕事図鑑の編集長、大牧圭吾氏が生産性新聞のインタビューに応じた。「年間100人の後継者を産地に」を目標に掲げ、マッチングのさらなる強化で、技術伝承と移住の促進を加速させる。
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高い関心と低い離職率
「後継者インターンシップ」は採用を目的とした短期間のインターンシップで、現地での就業体験や移住者との座談会などを通して、「職人」という仕事を学ぶ。全国各地の工房でインターンシップを開催しており、各回ともモノづくり系の学校などから、平均して30人から40人ほどの応募が集まる。
5年間で109人の内定承諾者が誕生した。1年以上定着率は82.8%と早期離職が非常に少ないのが特徴だ。「移住してでも職人になりたい」と考える若者は多く、内定者の7割以上が県外から移住して就業しており、Iターン率は71.6%と高水準だ。
大牧氏は「これまで誰も手を付けなかった伝統産業の担い手を発掘する仕組みをつくってみて、多くの若者が手仕事に興味を持っていることを知り、驚いた」と話す。担い手不足に初めて挑戦 ソーシャル事業を手掛けるファストコムの新規事業として、大牧氏は2015年1月、「ニッポン手仕事図鑑」を立ち上げた。全国の伝統工芸の担い手である職人の動画をつくり、紹介するメディアを運営するサービスをスタートさせた。
職人の映像を撮影するために全国を飛び回っているうちに、伝統工芸の産地が抱えている悩みを聞くようになった。多くの職人が口にしたのは、新しい販路の開拓と、今の時代に売れる商品の開発、そして、担い手不足の課題だった。
販路開拓と商品開発は、国や地方自治体がサポートに乗り出しており、民間企業にもプレーヤーがいる。しかし、担い手不足は最重要課題であるにもかかわらず、行政の取り組みが十分ではないと感じられた。「ニッポン手仕事図鑑がチャレンジするべき課題ではないかと思った」。
2018年から2年間、国の補助金なども活用しながら、自社で「後継者インターンシップ」に試験的に取り組んだ。「2年で4回のインターンを実施し、毎回50人前後の応募者があり、その中で1人が内定した。これはいけると確信した」。
2020年に入り、各地の伝統工芸の後継者を発掘するという日本初のプロジェクトをスタートする決意を固めた矢先、コロナ禍で1年間自粛せざるを得なかった。仕切り直して、2021年度から本格的に「後継者インターンシップ」をスタートした。

成功事例を横展開
職人になりたい若者が大勢いることは分かっていたが、受け入れ側の事業者に参加してもらうのは簡単ではなかった。
「弟子になってから5~10年でようやく一人前という伝統工芸の世界で、今の収入から半人前の弟子に給与を支払うことを考えると、二の足を踏む職人は少なくなかった」。
スタート当初は職人を説するしか方法がなかった。しかし、回を重ねるごとに、他の成功事例を話すことができるようになり、風向きが変わり始めた。
例えば、技術者としては一人前でなくても、親方が催事に出ている間に、弟子が生産の一部を進めたり、親方が生産している間に弟子が販売したりする。「若者が一生懸命に説明すると応援する人が現れる。SNSで発信したり、メディアに取り上げられたりして、話題になることも多い」。
このような効果を説明すると、躊躇していた親方も「やってみるか」となる。先行事例がきっかけでチャレンジの連鎖が続く。そして何より、自分の仕事をやってみたいという若者が大勢集まることが職人たちの励みになり、同職種の工房や他地域の希望になった。

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移住の意思決定も支援
2021年から2025年までの内定者数は134人で、内定承諾者数は109人だ。この差の25人の多くが、職人の仕事はしたいが、移住の意思決定ができなかったという。
「若者が不安なく職人として新生活を始められるよう、移住の意思決定がしやすくなるようなプログラムが必要だ。就業の意思決定をさせる時間だけでなく、生活のイメージを持ってもらう時間も大事にしていきたい。それが結果的に地方創生にもつながる」。
職人の仕事は離職率が高いと言われていたが、後継者インターンシップを経て職人になった若者は、4年以上就業している人がいる中で、7割以上の後継者が現在も活躍している。
一般企業と比べて、待遇面で劣るケースもあるが、若者にとって勤務条件だけが職人を続けるモチベーションとは限らない。実際に産地での仕事では、条件で上回る法人事業者よりも、むしろ一人親方の下で働く方が長続きしやすいという。「経営者と社員の関係よりも、『今夜は夕食を食べていきなさい』と家族的な付き合いになったほうが救われる若者もいる。親方の人間性や熱意、将来のビジョンが重要になる」。
現在は高校生や大学生を中心に産地の魅力を訴えているが、さらに、今後は小学生や中学生にも伝統工芸に憧れてもらう工夫も始めている。「生成AIの登場で、現場仕事の魅力が回帰するのは必至だ。今がチャンスだ」。
そのためには、後継者として送り出した20代、30代の若手の職人の活躍の場を提供することが重要だ。「アーティストやアイドル、スポーツ選手など、小学生が憧れるのは20~30代の若者であり、その世代が活躍する姿を見せていきたい」。
7月23日から8月5日、東京・新宿で、若手職人と親方の合同ペア作品展「弟子と親方展」を開く。「若手職人に光が当たる場をつくりたい」という思いが込められている。

1977年長野県安曇野市生まれ。2015年1月に動画メディア『ニッポン手仕事図鑑』を立ち上げ、編集長に就任。令和6年度小学校4年生国語の教科書(光村図書)に執筆。
生産性新聞2026年7月5日号:「サービスイノベーションの挑戦第9回」掲載分
登場人物の所属・役職は新聞掲載時のものです。