カスハラ対策の企業事例:スカイマークが実践する判断フロー・教育動画・報告体制

取材に対応いただいた方 ※所属・役職は2025年8月時点
CS推進室 室長 戸田 健太郎 様(写真右)
副室長 井上 弥緑 様(写真中央)
野村 誠太郎 様(写真左)

スカイマーク株式会社
スカイマークは、1996年に設立された日本の航空会社。東京・羽田空港を主要拠点に、新千歳、神戸、福岡、那覇など国内の主要都市や観光地への定期便を運航。「あらゆる人々に、安全で安心かつ高品質な航空サービスを、身近な価格で提供する」という企業ミッションのもと、幅広い利用者に支持されている。
2017年度から2023年度まで6年連続で定時運航率1位を獲得し、JCSI(日本版顧客満足度指数)調査でも複数年にわたり1位を獲得している。第4回日本サービス大賞では国土交通大臣賞も受賞するなど、サービス品質と顧客満足の両立を高いレベルで実現している。

日本サービス大賞・国土交通大臣賞を受賞したスカイマークの授賞理由を見る ↓

カスタマーハラスメントとは?2026年防止対策義務化で何が変わるか

カスタマーハラスメント(以下、カスハラ)は、過度な要求や暴言、威圧的な言動によって従業員の心理的負担や離職リスクを高める深刻な問題です。
2026年10月に予定されている労働施策総合推進法の改正では、カスハラ防止対策が事業主に義務付けられ、これまでの「推奨」から「法的義務」へと位置づけが変わります。これにより企業には、社内ルールの整備や相談窓口の設置、被害の把握と再発防止策の実施、従業員教育の徹底など、より実効性のある対応が求められます。
また、対応を怠った場合には、行政による指導や企業イメージの低下、離職率の上昇といったリスクも生じるため、早期かつ計画的な対策が重要です。
高い顧客満足度と運航品質で知られるスカイマークでは、現場で実際に機能するカスハラ対策の構築に取り組んできました。本記事では、同社が整備した判断フローや報告体制、教育動画のポイントを通じて、“現場で機能する”カスハラ対策のあり方を紹介します。

カスハラの定義と判断基準の作り方~スカイマークの9分類とは

カスハラは、「顧客による社会通念上許容される範囲を超えた言動」を指し、スカイマークでは、従業員のメンタル不調や退職、職場環境の悪化、さらにはサービス品質の低下にもつながる重要な課題であると捉えています。
これまでは「苦情なのか、不当クレームなのかわからない」「苦情とクレームの違いについても社内で共通認識がなかった」という状態が長年続いていました。そこでまず取り組んだのは、「苦情・クレーム・カスハラとは何か」を社内で明確に定義することです。カスハラを以下の2つの観点から定義し、その上で具体的な事例を9分類(カスハラ9分類)に整理して、社内で共通認識を持てるようにしました。

<カスタマーハラスメント行為の定義>
・要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なもの
・従業員の就業環境が害されるもの

<カスタマーハラスメント行為の具体例(9分類)>
①暴言、大声、侮辱、差別発言、誹謗中傷等
②脅威を感じさせる言動
③過剰な要求
④暴行
⑤業務に支障を及ぼす行為
⑥業務スペースへの立ち入り
⑦従業者を欺く行為
⑧会社・従業者の信用等を毀損させる行為
⑨セクシャルハラスメント

次に、お客様から申し出があった際に、それが苦情・クレーム・カスハラのいずれかに該当するかを適切に判断し対応する必要があります。そのため、従業員が判断しやすいように基準を明確化し、苦情・クレーム対応からカスハラと判断するまでの流れを体系化し、判断対応フローを整備しました。

「苦情・クレーム・カスハラ」判断基準

カスハラ対応フローの整備と対応の均一化~報告体制の構築方法

定義と判断対応フローを整備しただけでは不十分です。次に着手したのが、全社的な報告体制の構築です。それまでは、費用が発生した案件以外は記録が残らず、対応が属人化し、ばらつきのある状態でした。
そこで「苦情・クレーム・カスハラ対応ワーキンググループ」を立ち上げ、3つのお客様対応部署をCS推進室が横断的にまとめる体制を構築し、本社・本部への報告・再確認・フィードバックのサイクルを確立することで、誤認リスクの回避と対応の均一化を実現しました。
また、カスハラに該当するかどうかを判断し、結果の重大度を数値化する「リスクコントロールマトリクス」評価や、搭乗拒否の審議を行う専門委員会も発足させました。

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カスハラ研修・教育動画の作り方~イエローレッドカード制度とは

体制が整った後に力を入れたのが、ルールの明文化と教育の展開です。
新たに作成した「カスハラ対応規程」には会社方針や定義、報告・対応フローなどを盛り込み、付属書として空港旅客係員・客室乗務員・予約センターを管轄する3部門における対応事例集も作成しました。外部機関からのアドバイスを受ける中で特に意識が変わったのが、しっかりとカスハラを抑止する意思表示をすることの重要性です。イエローカード(注意喚起)・レッドカード(対応打ち切り)という段階的な意思表示の方法と、対応時間の上限を原則20分と定めたことで、以前は2時間にも及ぶこともあった対応が大きく改善され、現場の安心感につながっています。
また、基礎編・実践編の2つの教育動画を制作し、社長自らのメッセージとともに全社員へ展開しました。基礎編では、カスハラに関する基本知識や判断基準を、図解を交えてわかりやすく解説し、従業員一人ひとりがカスハラへの理解を深められる構成となっています。実践編では、客室での暴言・脅迫対応や、空港で乗り遅れた旅客への対応、予約センターで責任者へ引き継ぐ場面など、現場で起こり得るケースを実際の社員が演じながら解説し、イエローカード(注意喚起)・レッドカード(対応打ち切り)の判断基準や対応方法を具体的に学べることで、誰もが迷わず行動できる内容に仕上げています。

カスタマーハラスメント教育動画(実践編)の一場面

カスハラ対策の効果~従業員エンゲージメントと心理的安全性の向上

取り組みを進める中で、予想外の副次的効果も生まれました。それが、従業員エンゲージメントの向上です。
「会社が自分たちのことを考えてくれている、守ってくれる」という実感が社内に広がり、これまで「お客様だから耐えなければならない」と感じていた従業員が「不当クレームやカスハラは対応を断ってもよい」と理解できたことで、心理的安全性とモチベーションが向上しました。
一方で、現場で発生しているカスハラの実態を、役員や本社が十分に把握できていないという課題もありました。そこで、現場からの報告をタイムリーに集約し、映像や数値データも交えながら共有を進めたことで、経営層の認識も大きく変化しました。今後も、現場だけに対応を任せるのではなく、本社・経営層が連携しながら、従業員が安心して働ける環境づくりと、実効性のあるカスハラ対策の推進に取り組んでいきます。

※本記事は、2025年8月時点の取材内容をもとに作成しています。

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