【サービスイノベーションの挑戦】第3回:ARROWS

「経済産業大臣賞」ARROWS

子どもたちに学びの機会をつくりたい学校の先生と、民間企業をつなぐオリジナル教材パッケージ「SENSEI よのなか学」で第5回日本サービス大賞経済産業大臣賞を受賞したARROWS代表取締役社長の浅谷治希氏は、生産性新聞のインタビューに応じた。子どもの体験格差・教育格差を改善し、「先生から、教育を変えていく。」というビジョンに掲げた取り組みをさらに浸透させる。

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先生の負担減で教育格差是正~専門分野の授業に対応

「SENSEI よのなか学」は、日本や世界を最前線でリードする企業が持つ知見やツール、データ、最新情報を盛り込んで作成した完全オリジナルの教材パッケージだ。学習指導要領に沿った通常の授業で使える教材を提供することで、「子どもたちによのなかに触れる機会を作りたい」と考える意欲のある先生をサポートするのが狙いだ。
この事業は、先生が教えたくても十分に教えることが難しい領域を、どのように支援するかを考えた結果生まれたものだ。学校現場では、実務に追われる先生が、準備のために十分な時間が割けない現状がある。

例えば、2022年度からは高校の家庭科に金融教育が組み込まれ、家庭科の先生が金融教育を行うことになった。専門性が必要な領域を、先生たちは自分たちで学び、教えていかなければならない。ただでさえ忙しい先生にとっては大きな負担になる。
「SENSEI よのなか学」は、各業界の最前線の企業と提携し、授業で使える完全オリジナルの教材を制作して無料で提供する。先生は30分程度の準備をすれば、最先端の授業を行うことができる。金融教育であれば、金融機関とコラボレーションした教材提供により、信用できる情報を子どもたちに伝えられる。

先生には無料で提供

「SENSEI よのなか学」の特徴は、顧客である先生には無料でサービスを提供する一方、民間企業から収益を得るという全く新しいビジネスモデルにある。教育業界では、先生や学校、あるいは保護者から対価を得るビジネスモデルが一般的だが、浅谷氏は「学校現場には十分な予算がない。また、各地の学校や教育委員会を一カ所ずつ訪問して提案するには大量の人員を動員する必要があり、より早いスピードで改革を進めるためのビジネスモデルを選択した」と話す。
企業にとっては、授業づくりに協力することにより、小中高生に自社の魅力や価値を伝えることができるメリットがある。学校の先生にアンケートし、教育現場で求められるテーマを厳選し、ARROWSのチームが教材の制作に加わることで、情報の偏りを排し、魅力ある教材に仕上げる。

「SENSEI よのなか学」の教材の例

先生ファーストを徹底

同社の最大の特徴は「顧客起点」だ。学校教育の分野には、先生や生徒のほか、保護者、教育委員会、文科省など多くのステークホルダーがいるが、その中で、顧客を「現場の先生」に絞り、意思決定する際には明確に優先順位をつける。
学校の先生を起点に考えるという方針は、浅谷氏が起業した原点でもある。教育を変えようとしても、行政へのアプローチでは、法律や制度を変えたり、予算を確保したりする必要性があり、容易ではない。

そんな時、高校の先生をしている友人から仕事のやりがいについて話を聞く機会があり、「社会で重要な役割を果たしている個々の先生を直接応援する仕組みを考えた」と振り返る。社員全員が顧客起点に立って考え、ベクトルを合わせる。「迷ったり、壁にぶつかったりしたときは、『先生やその先にいる子どもたちにとってどうなのか』とシンプルに考えればいい」。

同社は基本的に、学校の先生や子どもたちに価値提供できる事業しかやらない。企業からオファーがあったとしても、それに当てはまらなければ取引を断るケースもあるという。2022年から、KGI(経営目標達成指標)を売上や利益ではなく、授業を届けた子どもたちの人数にし、ミッション・ビジョン・バリューに基づいて経営を実践している。
「最初から『お金になるかどうか』という価値判断でビジネスに取り組もうとすると、ユニークな事業は生まない。それよりも、まず世の中で非常に重要な課題を解決すると決めて、ビジネスモデルは後から必死に考える、というのが私たちの姿勢だ」。

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実績作って局面打開

「SENSEI よのなか学」は2017年にリリースしたが、当時は1万人の子どもたちに届けるのがやっとだったという。その背景には、教材を制作したい企業を見つけるのに苦戦したことがある。「企業を訪問しても、『やろうとしていることは素晴らしいが、まずは実績を積んでから来てください』と言われることが多かった」。

そんな時、検索サービスの大手企業がファーストペンギンに名乗りを上げてくれた。それをきっかけに、訪問する企業の目の色が変わったという。4年後には累計100万人まで届けられるサービスになった。
コロナ禍では、学校現場にも戸惑いが広がり、事業の拡大も足踏みした。しかし、この時期を生かして、先生のニーズをしっかり掘り下げることができた。感染防止のためにすべきことなど、先生が直面した課題を聞いて、支援した。

浅谷氏は「教育業界の課題は、子どもの教育環境と世帯年収に強い相関性があり、格差が一段と拡大していることだ。学校の仕組みを使うことで、地域や世帯年収に依存せず、先生を通して広く子どもたちに届けることができる。このサービスをさらに広げていくことが格差の是正につながる。今後は、格差の広がっている先進国にも広げていきたい」と意欲を示している。

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生産性新聞2026年4月25日号:「サービスイノベーションの挑戦第3回」掲載分
登場人物の所属・役職は新聞掲載時のものです。

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