厚生労働大臣賞 ミライロ

デジタル障害者手帳「ミライロID」で第5回日本サービス大賞の厚生労働大臣賞を受賞したミライロ代表取締役社長の垣内俊哉氏が生産性新聞のインタビューに応じた。カバンや財布から取り出していた障害者手帳をスマートフォンアプリにすることで、外出する障害者の心理的負担を軽減する一方、パートナー事業者のビジネス機会を創出するなど、新たなインフラとしての存在感を高めている。
デジタル障害者手帳をインフラに~障害を価値に変える
垣内氏は、車いすでの生活を通じて得た経験から、障害を価値に変える「バリアバリュー」という理念を掲げ、大学在学中の2010年6月に同級生の民野剛郎氏(現・同社副社長)とともにミライロを設立した。
教育機関などを対象にバリアフリーマップを制作したほか、ユニバーサルデザインのコンサルティング事業もスタートした。そして、ユニバーサルマナーの研修事業も始め、様々な企業・団体に研修を提供するようになった。
研修事業は、障害のある当事者が講師を務め、障害者や高齢者のサポート方法についての知識や技術、当事者の心理までをレクチャーするものだ。13年にはユニバーサルマナー検定もスタートした。

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共感が協力の輪を広げる
こうした実績を積んだ後、デジタル障害者手帳「ミライロID」をリリースしたのは、2019年7月だった。垣内氏は「今は社内の優秀なエンジニアに任せているが、最初は私が試行錯誤しながらベースを作った。当事者である自分が、一番使い勝手の良さを判断できる」と振り返る。
障害者手帳は1949年から始まった歴史ある制度だが、都道府県・政令市などでフォーマットが分かれており、292種類(2026年5月現在)も存在している。このため、不正利用が横行していたほか、事業者の本人確認にも手間を要していた。これをスマートフォンに取り込み、フォーマットを統一するのが「ミライロID」の狙いだ。
2018年ごろから準備を進めたが、最初は、障害者手帳が何種類あるかも明らかではなかった。「当社からフォーマットを尋ねても、『開示できない』と回答する自治体も多く、当社だけでは100種類程度しか把握できなかった」。
状況を打開するため、厚生労働省へ相談をしたところ電子化の意義に共感を示し、その結果、厚生労働省のバックアップを得ることができた。
「ミライロID」を提示することでサービスが受けられる事業者も、リリース当初は、利用できる事業者がなかなか集まらなかった。
そんな時、西武ホールディングスの後藤高志氏(現・取締役会長)と面談の機会をいただいた。後藤氏に「ミライロID」を説明したところ、「よし、うちでやろう」とファーストペンギンを買って出てくれた。西武鉄道でサービスが開始されたのをきっかけに、他の鉄道事業者や外食産業、小売店などに共感の輪が広がっていった。
また、20年6月には、民間活用の第一号としてマイナポータルAPIから情報を取得し、マイナポータル・マイナンバー制度が実現する利便性の高い公平・公正な社会基盤の構築にも貢献している。
「コード決済が走り始めた時期で、スマホで何かを示すということが当たり前になり、時流に乗れたと感じた」と垣内氏。事業者は4200、ユーザーは60万人にまで広がっており、今ではインフラのひとつになっている。
垣内氏は「政府や企業に全て頼り切っていたら、ここまでの広がりはなかっただろう。最初に苦労して自分たちで形を作ったから、政府にも協力してもらうことができ、応援してくれる企業も増えた」と振り返る。

「申し訳ない」気持ち解消
「ミライロID」の使い方もより便利になっている。JR四国のチケットアプリ「しこくスマートえきちゃん」との連携サービスでは、それぞれのアカウントをあらかじめ連携させておくことで、「スマえき」から障害者割引を適用したきっぷが購入できる。
無人サービスの多い時間貸し駐車場では、二次元コードによる認証機能を「ミライロID」に実装した。カメラやインターホンを通してのやり取りを不要にし、聴覚障害者にも使いやすくするためだ。2022年8月から提供を開始し、25年9月には、対応する駐車場が200カ所を突破した。
垣内氏は、「障害者が障害者手帳を示すとき、人の手をかけさせるので『すみません』という言葉がつい出てしまう。ミライロIDの利便性を高めることで『申し訳ない』と思ってしまう心理的なストレスを解消できるはずだ」と話す。
一方、事業者側も、「ミライロID」を導入することで、障害者フレンドリーな企業姿勢を示している。それに加えて、新しく割引優待サービスを設けることで、市場の拡大に向けて動いている事業者が増えている。
垣内氏は「『バリアバリュー』という言葉は、障害を取り除くものではなく、価値に変えることを指す。こんなに大変なんだと主張するよりも、互いにメリットがあり、価値を生み出せることを訴えていくことが大事だ」と話す。

日本の仕組みを海外展開
今後は「ミライロID」を海外にも広げて行く方針だ。当面は障害のある訪日外国人向けの「ミライロID Global」(仮称)の実現を目指す。関西万博のチケット購入時などの本人確認書類に採用されたことを契機に「ミライロID」の問い合わせが増加しており、訪日外国人が使えるインフラとして整備する。
垣内氏は「日本はバリアフリーの手本として見られている。日本でつくり上げた仕組みを海外に展開し、相互に使える仕組みに育てていきたい。障害者手帳の電子化を進めることは現地で雇用をつくることにもつながる。バリアバリューの実現をグローバルに展開したい」と意欲を示した。

岐阜県中津川市育ち。生まれつき骨が脆く折れやすい「骨形成不全症」のため、車いすで生活を送る。立命館大学経営学部在学中の2010年、ミライロを設立。13年には日本ユニバーサルマナー協会を設立し、代表理事に就任。
生産性新聞2026年5月15日号:「サービスイノベーションの挑戦第5回」掲載分
登場人物の所属・役職は新聞掲載時のものです。

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