優秀賞 おてつたび

お手伝いと旅を掛け合わせた人材マッチングサイト「おてつたび」で第5回日本サービス大賞優秀賞を受賞した、おてつたび代表取締役CEOの永岡里菜氏は、生産性新聞のインタビューに応じた。人手不足に悩む地域の事業者と、働きながら旅を楽しみたい旅行者をマッチングするという新しい発想のサービスモデルで、地域課題の解決に挑む。

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旅先で人と触れ合う構想
おてつたびは、地域事業者の求人掲載は無料で、マッチング成立時のみ手数料が発生する仕組み。旅行者は、人手不足の地域で仕事を手伝うことで、報酬と宿泊場所が提供される。有名な観光地でなくても、全国各地から人材を募集することができ、平均で募集人数の200%以上の申込率があるという。募集事業者は、全国47都道府県3,000以上に拡大している。
永岡氏は「私の出身地の三重県尾鷲市には著名な観光地はないが、一度足を運んでもらえば、その魅力を感じてもらえる。同じように名前は知られていないが、魅力のある地域は全国にたくさんある」と話す。
人が地域を訪れるきっかけさえあれば、地域の課題の解決の糸口になると信じていた。20代後半で会社勤めを辞め、半年間、夜行バスで全国の地域を巡って旅をした。地域のお手伝いをしながら、旅費をねん出するという “一人おてつたび” をする中で、地域が抱える人手不足が深刻化している現実を目の当たりにした。
旅先で働くことによって、一定期間地域に根を下ろし、より深く地域の魅力に触れることができる。そして、「地域に魅せられた人たちが、再び地域に戻ってくるという循環をつくることができるのではないか」と感じ、おてつたびを起業する構想を立てた。
しかし、おてつたびの構想を人に話しても、8割は「ニーズがないからやめたほうがいい」とネガティブな反応だった。一方で、残る2割は「もしあったら絶対に使いたい」という圧倒的に支持する声だった。「ニーズがあるかどうか手探りだったが、自分の感覚を信じてやっていこう」と決意した。


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賛同者が1%でも
起業の決意はしたものの、おてつたびは、受け入れ先の事業者がないと始まらない。地域に理解してもらい、受け入れてもらえる形を作るのが肝になる。
しかし、実績もなく、法人格もなく、想いと勢いだけの起業家を理解する事業者は、当初は多くなかった。「100事業者にお話しして、ようやく1つ良い返事をもらえるという割合だった」。それでも、100分の1の確率で理解してもらえるなら、「声をかける事業者の数を増やせばいい」とポジティブに考えて、営業に力を入れ、賛同事業者を1つずつ増やしていった。

コロナ禍で価値観変わる
おてつたびのサービスが回り出して間もなく、新型コロナウイルスの感染流行に見舞われ、移動を伴うサービスは全て停滞した。2018年に創業して以来、永岡氏一人で一年半運営し、事業の拡大に伴って社員を二人採用した矢先だった。
永岡氏は「人の移動や対面での交流を伴うサービスであるため、当時は思うようにならずに向かい風に阻まれたが、追い風もあった。コロナ禍を通じて、地域に意識を向ける人が増え、地域の事業者も、おてつたびで訪れるユーザーを大事にするようになった」と振り返る。
コロナ禍以前は、旅行の単価が高く、平日も旅行に来るインバウンドを重視する事業者が増えていた。しかし、コロナ禍でインバウンド需要は消滅してしまった。「大きなお金を落としてくれるインバウンドや一見さんよりも、国内の常連客の重要性を見直す経営者が増えた。『いざというときに助けてくれるファンを育てることは大事だ』と、おてつたびを導入してくれることもあった」。
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シニア層にも拡大
創業当初、主なユーザーはZ世代を中心に広がっていった。しかし、コロナ禍が終息するころには中高年層にもおてつたびを使ってもらいたいと考えるようになり、ユーザー層の拡大に力を入れている。永岡氏は「日本社会の構造を考えると、これから生産年齢人口が減っていく中で、健康寿命が延びて、元気なシニアが増えるのに、社会で活躍できる場がなくなってしまうのは社会的損失が大きい」と指摘する。
その結果、最近では、シニア層にも注目されるようになり、参加者の約3割をアクティブシニアが占めるようになったほか、企業人や移住者も増えてきている。
同社が実施したアンケート調査によると、おてつたびを受け入れた事業者の12%が、参加者を中長期アルバイトや正社員として採用しており、実際にそこから就職や二拠点居住、移住に繋がったケースも増えている。人口2,000人未満の村のおてつたびで宿の若旦那と結婚し老舗旅館の若女将になった参加者や、早期退職後に農業でおてつたびして移住・起業した人、夫婦でおてつたびに参加した現地の宿に就職し、そのまま移住して第2の人生を楽しんでいる人もいる。
永岡氏は「起業した当初は『おてつたびを転機に移住する人が増えたらいいな』と期待はしていたが、実際にこんなにたくさんの事例が出るとは予想できなかった」と驚く。
おてつたびを立ち上げた一番の理由は「日本各地の地域が少しでも多く次世代に残る未来を創る」という地域への強い想いだ。永岡氏は「人口減少のしわ寄せが地域に偏ることが避けられないとしても、1人の人が何役もこなすことによって、ヒト・モノ・カネが地域に循環する仕組みをつくることはできる。おてつたびが、誰もが居住地と出身地以外に好きでたまらない地域をつくるきっかけになれたら嬉しい」と話している。
◇ 第6回日本サービス大賞は、9月14日から応募受付を開始しました。詳細はこちら。

2013年に千葉大学教育学部を卒業し、イベント企画・制作会社にディレクターとして入社。2016年に転職した企業で農林水産省との和食推進事業の立ち上げを経験。一見何もなさそうに見えてしまう地域に人を呼ぶ仕組みを創りたいという思いから2017年に退社。半年かけて全国を旅する中で、地域ごとの魅力を発信したいとの思いを強くし、2018年におてつたびを起業。
生産性新聞2026年9月25日号:「サービスイノベーションの挑戦第15回」掲載分
登場人物の所属・役職は新聞掲載時のものです。