【サービスイノベーションの挑戦】第17回:豊明花き

農林水産大臣賞 イロドリ*ミドリ

花き(観賞用植物)の流通DXを業界に広げる取り組みで第5回日本サービス大賞農林水産大臣賞を受賞した豊明花き専務取締役の重村修一郎氏は、生産性新聞のインタビューに応じた。自社で開発したプラットフォーム「イロドリ*ミドリ」をオープン化することで、業界全体の経営改革を後押しする考えを示した。

注文取引が改革の突破口

愛知豊明花き地方卸売市場は、鉢花や蘭などの観賞用植物の取引規模でアジア最大・世界第5位を誇る日本屈指の花き専門市場だ。豊明花き、日本植物運輸、豊明物流の民間企業3社でつくる愛知豊明花き流通協同組合が運営する実質民設・民営の市場で、経営の自由度が高いのが特徴だ。

花き流通業界は、委託取引が中心で、その日の市場の需給で価格が決まるなど、不安定な取引価格が課題だった。出荷者の経営規模が小さく、取扱品目が多い。流通業者の業務は煩雑になり、コストが膨らむという難しさもある。
重村氏は「注文取引によって、出荷者は需要に応じた計画的な生産が可能になり、販売業者も販売計画に基づいた仕入れが可能になる。流通側にとっても流通量を把握でき、経営が安定する」と、取引構造の転換の重要性を指摘する。

上図:「イロドリ*ミドリ」と「ミライノミドリ」を活用した取引の流れ。下図:「ミライノミドリ」の利用メリット

ネット取引普及に苦戦

注文取引の比率を高める原動力となったのが、インターネット取引の普及だ。豊明花きは2000年、業界に先駆けて、インターネット取引「TOPNET」に取り組んだ。当時の経営者が花きの先進国であるオランダに視察に出向き、ネット取引の重要性を学んだ。ただ、当時の日本はADSLの提供が開始されたばかりで、インフラの環境が整っていなかった。
重村氏は「産地でネット取引の説明をする前に、PCとネット回線をあっせん販売して回るなど、現場の担当者は奮闘したが、利用率は十分に高まらなかった。時代を先取りしすぎた」と振り返る。

08年、ネット取引のリニューアルに取り組み、新しいプラットフォーム「イロドリ*ミドリ」をスタートさせた。10年には商品カタログを開始し、生産情報からの取引へと改革を進めたほか、スマホの普及率が0.5%になったタイミングをとらえ、12年にはスマホサイトを開始するなどプラットフォームの本格展開に乗り出した。
しかし、イロドリ*ミドリの価格登録の数字は、すぐには上がらなかった。「仕組みは作ったが、現場にとっては新しい手順で、仕事が増えると感じた。号令をかけるだけでは、登録頻度は上がらない」。

イロドリ*ミドリを普及させ注文比率を上げることこそ、あるべき姿であると言い続けた。目標設定と評価制度に組み込み、社員の成績に直結させる仕組みを作った。月次で商品登録率や販売実績の数字を共有するなど可視化を進めた。

消費者の視点を取り入れて開発した独自ブランド「三ツ星品質」の商品例

成功体験でDX普及

普及へ向けた転換点は社員の実感だった。売り上げが伸び、社員が「成果につながる」と実感し始めたことで、注文取引比率も上昇した。重村氏は「最初はネットに不慣れな出荷者の代わりに営業担当者が圃場に出向いて写真を撮影し、アップした。カタログの量が増えて、注文が入るように畑を耕した」と話す。
16年には、出荷者サービスを開始するなど、出荷者との取引全般のDXに乗り出した。社内でうまくいった成功体験を、取引先にも展開した。「担当者が写真撮影のコツなどのマニュアルを作ってアドバイスした。出荷者自らがアップしたサイトに注文が来るようになり、喜びを感じられるようになった」。

コロナ禍を契機に、20年にネット取引専用契約プラン、21年にライブオークションを相次いで導入するなど、提供サービス全般のDXを進めた。リアル会場とネットオークションのハイブリッドで開催し、どこからでも参加できるため、ネットオークション導入前と比較して競売参加者が1.6倍になった。
申し込みから取引、決済まで、すべてオンラインで完結するネット取引専用プランは、現在では、販売業者との契約の約4割を占めるほど普及している。

「DXを進めるには成功体験により利用が促進される仕掛けづくりが大切だ。『使ってください』とお願いするだけではなく、『使うと得だ。売り上げが増える』という成功体験の場を作ることを心がけた」。
DXの恩恵は社内外にもたらされた。社内では以前は、業務が属人化し、新規顧客が増えるほど現場の業務量が増えるため、新規開拓そのものが歓迎されなかった。ネット取引限定の契約なら、担当者に紐づかず、同じ仕組みで受けられる。
社外では、園芸店・生花店・造園業者だけでなく、飲食業者、家具・インテリア業界など、異業種からの申し込みが多数寄せられ、新たな販路開拓につながった。

流通改革をオープン化

23年からはイロドリ*ミドリのオープン化に乗り出した。出荷者・卸売市場・販売事業者・消費者を一つの流れでつなぐ「ミライノミドリ」を構築し、商品提案・出荷データ・販売データを連携し、花き流通全体のDXを目指す。
出荷者は、イロドリ*ミドリに商品情報を登録するだけで、提携している全国7市場へアプローチできる。市場にとっては、自前でシステムを作らなくても、同じ仕組みに乗るだけでネット取引を進められる。

また、業界の縮小が懸念される中で、「生産や流通に関する情報活用だけでは、今後マーケットは広げられない」と考え、消費者との接点拡大にも取り組む。植物SNSを展開するGreenSnapとの資本業務提携はその一例だ。
重村氏は「店舗に入荷した植物の情報をアプリで自動通知するサービスを提供すれば、消費者が求める植物が店舗に並ぶタイミングがわかる。一連の改革で、生産・市場・販売・消費者がつながる情報のオープン化を進め、業界の活性化を実現したい」と意欲を示している。

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生産性新聞2026年10月15日号:「サービスイノベーションの挑戦第17回」掲載分
登場人物の所属・役職は新聞掲載時のものです。

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