昨年2025年12月9日、第5回「日本サービス大賞」の受賞事例33件が発表された。受賞した革新的かつ優れたサービスは、一体どのようにして生まれ、広がっていったのか。受賞までの道のりに光を当て、サービスイノベーションに挑戦する人々の思いに迫る。
内閣総理大臣賞「ナビタイムジャパン」
「第5回日本サービス大賞」の最優秀賞である内閣総理大臣賞に選出されたナビタイムジャパン代表取締役社長の大西啓介氏は、生産性新聞の新連載「サービスイノベーションの挑戦」のインタビューに応じた。受賞サービスである「JapanTravelbyNAVITIME」の将来展望などを語ったほか、日本企業が目指すべきサービスイノベーションの考え方を明らかにした。

利用者目線で地道に開発継続
「JapanTravel」は、訪日外国人客向けに観光情報から旅行プラン作成・予約、経路検索、旅行体験共有まで全工程で役立つ機能を一つにまとめたアプリだ。13言語に対応し、月間ユニークユーザー数は全訪日外国人の約5割に相当する200万ユーザーにのぼる。
日本全国あらゆる公共交通機関(電車・飛行機・バス・フェリー等)の時刻表に対応し、きめ細かな情報を提供する。さらに、そこから得られたデータを分析し、地域の観光資源を発掘するなど地域活性化に寄与している。
大西氏は「複数の移動手段を組み合わせ、行きたいところを指定するだけで自分だけの旅行プランを作れる日本国内のトータルナビゲーションシステムを開発したのは今から30年前の1996年だった。プランニングに欠かせない観光スポット情報や観光ガイド情報を自社で整備したり、路線バスや広域バスなどの交通データを網羅したりして、商品化するのに十数年の時間がかかった」と振り返る。
外国人向けに関しては、2013年、高度道路交通システムに関する「ITS世界会議」が東京で開かれた際、各国から来日する要人向けサービスとして依頼を受けて、国内向けのシステムを土台に開発したのがきっかけだ。要人が会議後に日本観光をするのに好評だったことから、同年、一般の外国人観光客向けに「JapanTravel」をリリース。当初は、ユニークユーザー数は月間20~30万だったが、新型コロナの渡航制限により、来日者数はほぼゼロに落ち込んだ。
大西氏は「いずれコロナが終息するときを見据え、旅マエの観光ガイドを充実させた。記事作成チームが利用者に有用な記事を地道に作り、それが財産となっている」と話す。その効果もあり、コロナ後には訪日外国人の2人に1人が使うサービスにまで急成長したという。
大西氏と同じ大学の研究室にいた菊池新氏(同社取締役副社長)と2人で立ち上げたナビタイムジャパンの特徴は、あらゆるサービスを自社開発していることだ。「自分たちで出したアイデアを具現化してサービスをつくるのが楽しいし、出したものが世の中の役に立っていることを実感することがやりがいだ。一緒に楽しくアイデアを出したい人たちを採用している」(大西氏)。
大西氏は「大量に人と資金を投入するグローバル企業には、開発の瞬発力ではかなわない。しかし、ユーザー目線で、きめ細かく、地道に開発を続けてイノベーションを生み出す力は、日本企業の強みだと思う。JapanTravelも、エリアを全世界に広げて行くつもりで、これからも地道な努力を続けていきたい」と話した。
「革新的な優れたサービス」を表彰する日本サービス大賞の公式ホームページはこちら>>
Japan Travel スピード感が強み 日本流の革新力で社会課題を解決
利用者データを活用
当社の国内客向けのナビゲーションサービスは月額課金のビジネスモデルだが、訪日外国人向けの「JapanTravel」は月額課金が難しいため、無料のサービスを基本にしており、持続可能なビジネスモデルを構築するために様々な工夫を凝らしている。
データ取得の同意を得たアプリ利用者から、GPS測位データを定期的に取得し、統計化したこのデータを活用して、個人旅行客の行動分析を行っている。こうした訪日外国人の動態情報を自治体やDMO、観光事業者向けに提供することで、新たな観光資源の発掘を促し、地域の魅力向上につなげている。
2023年度の都道府県別訪日外国人増加率ランキング1位だった熊本県の分析では、人気アニメ「ワンピース」を利用した「ONE PIECE熊本復興プロジェクト」で、麦わらの一味像が設置された市町村が訪日外国人増加の一因であることが確認できた。自治体がプロモーションを実施したとき、効果があったのかが分かれば、次の施策につながる。
また、サービスの質の向上にも積極的に取り組んでいる。ルート検索結果から、シームレスに新幹線チケットが購入できる機能を追加した。チケットは二次元コードで発券でき、受け取りの手間や時間が不要なので、訪日外国人に好評で利用者が増えている。
昨年夏には、台湾観光用アプリ「TaiwanTravel」をリリースした。計画から現地の経路案内まで、多言語で訪台旅行をサポートする。地球全体を一つのサービスエリアとして、安心・安全・快適に移動できるようにしていきたい。

自前の開発が最大の特徴
基本的にすべてのサービスを自社開発していることが、当社の特徴だ。約420人の社員がエンジニアとして今でもその開発態勢を維持している。
その効果としては、開発スピードの速さがある。例えば、2022年7月に開発した「日陰マップ」機能は、地図上に、現在時刻の日陰状況を重ねて表示する。近年の夏の暑さを避けて、日陰を探して歩くことができる。これは、社員がアイデアをSlackでつぶやいたのが開発の始まりだ。Slack上で、ビルの形状から影の落ちる角度を計算するかなどの具体策の検討が行われ、その日の午後には試作品ができあがった。アイデア発案から機能リリースまでの期間はわずか30日だった。
当社の社員には、世の中に困っている人がいたら、それを解決したいという社会貢献の気持ちが強い。その解決方法も、社員一人ひとりが日々実感したことから、アイデアを考えたり探したりしている。自前での手作り感のある開発によって生み出された当社のサービスは、きめ細かで、利用者の心に響く。
観光地の対策にも貢献
訪日外国人が4000万人を超えるなかで、オーバーツーリズム問題も深刻化している。特定の観光地に許容範囲を超える観光客が押し寄せ、交通渋滞やゴミ、騒音のマナー違反などの課題が顕在化している。
当社では、まず、京都市のバス混雑緩和のため、鉄道を積極的に利用するおすすめルートの提供に取り組んだ。ほとんどのユーザーはアプリに表示される第一ルートを選択するので、この施策によって5~6%バスの利用者が減った。地下鉄を優先的に利用するルートで、快適な移動とバスの混雑緩和に貢献できたと思っている。
また、京都・祇園では、マナー啓発を呼びかけるプッシュ通知を配信した。GPSを活用し、特定の混雑エリアや注意が必要なスポットに訪日外国人が到着した際、多言語でマナー啓発メッセージを配信するなど、適切なタイミングでルールを周知し、地域との共生を促すのが狙いだ。
ユーザー目線で魅力発掘
日本サービス大賞では「価値共創」の観点から評価を受けたと認識している。とくに「価値共創」の効果を生んでいるのが、訪日客に地方の魅力を発信することだ。ランキングが上位になり、外国人客が増え、その効果を分析することで好循環が生まれる。
盛岡市は、米紙ニューヨーク・タイムズの「2023年に行くべき52カ所」で2位に選ばれたことを機に訪日外国人が急増した。これは、その6年前に当社が制作に協力したプロモーションビデオの効果もあると思っている。盛岡市の魅力は何かを、外国人の目線で地元の人たちに伝え、一緒になって理解を深めていった。地元の人たちは、誘客するには新しい何かを作らなければならないと考えがちだが、地元のたい焼き店や、レトロな居酒屋、川釣りの体験など、素晴らしいコンテンツは揃っており、すでにある街の魅力を発掘し、発信するだけで誘客につながることも多い。
地道な努力が価値を生む
当社は、データを地道に集め、ユーザー目線のきめ細かいサービスを提供することで存在感を出せる。地域の特性ある交通網を全て網羅するには時間がかかるが、世界中のデータを地道に広げていきたい。
例えば、地方のバスの時刻表は、地元のお祭りがあるだけでも変わる。こうしたきめ細かいデータの変更を社内のデータ入力チームが対応している。本当に大変な作業だが、こういうことをやって初めて正確なデータが網羅され、アプリの価値が高まる。 バス会社に時刻表データの提供を依頼しても、すぐに色よい返事をいただけるケースばかりではないが、バス会社には乗客を増やしたいという思いがあり、当社は、お客様に便利に快適に移動してもらいたいという思いがある。時刻表データを提供いただければ、お客様も便利になり、利用者が増え、両者の思いが実現することをご理解いただけるように、一社一社丁寧に話をしている。こうした努力を続けた結果、全国500社を超えるバス会社から時刻表データを集めて、ルート検索に入れることができ、「グッドデザイン賞ベスト100」にも選ばれた。地道な努力を認めてもらうことで、社員のモチベーションがあがった。
日本サービス大賞の内閣総理大臣賞受賞は大きな励みだ。昨年の忘年会で「この賞は『JapanTravel』だけではなく、日頃からのみんなの活躍が認められた結果だと思う」と告げると、いろんな部署のメンバーが、表彰状と記念写真を撮るために私のところにやってきて、一緒に喜んだ。

1993年、上智大学大学院理工学研究科電気電子工学博士後期課程修了。同年、父親が代表を務める大西熱学に入社。菊池新氏と二人でトータルナビゲーションの検索エンジン開発を始め、96年には社内ベンチャーとして経路探索エンジンのライセンスビジネスを立ち上げる。98年、電車・飛行機・クルマ・徒歩のすべての移動手段に対応したトータルナビゲーションを完成。2000年にナビタイムジャパンを設立し、社長兼CEOに就任。
生産性新聞2026年3月25日号:「サービスイノベーションの挑戦第1回」掲載分
登場人物の所属・役職は新聞掲載時のものです。