2026年9月24日、「総合計画の策定における『EBPM』実践講座」第1回が開催され、8自治体から13名が参加しました。講師は明治大学 専門職大学院ガバナンス研究科 専任教授の西出順郎氏です。
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<講座のポイント>
・EBPMは「方法」以上に「作法」である。PLAN(計画)の段階での工夫が要に。
・RCT(ランダム化比較試験)は因果推定の強力な道具だが“万能薬”ではない。準実験や比較の設計によって現実解を積み上げよう。
・エビデンスを軸に総合計画×行政評価×予算を連動させよう。

第1回「EBPM」実践講座の様子
EBPMとは?-意思決定を整える作法
西出教授は、EBPM(Evidence-Based Policy Making)を「根拠に基づく政策立案」と定義し、それが単なる高度な分析を指す名称ではなく、「意思決定の作法」を指すと強調しました。EBPMの源流は医療分野のEBM(Evidence-Based Medicine)。英国ブレア政権の“What Works?”の潮流を経て公共政策分野へ広がった歴史があります。
自治体実務で鍵となるのは、PDCAの「P(Plan)」にエビデンスを組み込むことです。行政組織において、政策は常に「制約(資源・文化)」と「別ベクトル(政治・慣行・経験)」に引っ張られます。だからこそ、計画段階で客観・科学的な根拠を盛り込み、制約の中で一工夫して別ベクトルの影響を極力減らすということです。実務に根ざした西出教授の視点が印象的でした。

西出順郎教授
RCT(ランダム化比較試験)とは?自治体での向き合い方
西出教授は、因果関係を見極める代表手法としてRCT(ランダム化比較試験)を解説しました。RCTでは、対象を無作為に「介入群」と「対照群」に割り付け、介入以外の条件を揃えて効果とリスクを比較します。
一方で、自治体では「工夫を凝らした新規事業を連発できない」「検証のための人・予算・知識が足りない」「政治的ベクトルも無視できない」という現実が立ちはだかります。このような現実の中、西出教授の結論は明快でした。RCTを礼賛するのではなく、準実験の発想で“実行可能な比較”を積み上げることです。また、PBEM(Policy-Based Evidence Making:結論先行の根拠集め)を避ける基本作法として、以下の4点が挙げられました。
・比較対象を必ず設定する(前後比較、他市比較、部局内でのDo/Don’t比較)
・制度改正や外的要因による影響を“自然実験”として捉え、差分を検証する
・指標の定義を統一する(分子・分母・算出式・出所・更新頻度・担当を明記)
・因果仮説と限界(欠測、バイアス)を明示し、検証計画を添える
葉山町の事例:資源ステーションの不法投棄対策を実験で検証
講義では、神奈川県葉山町で実施された、資源ステーション160カ所を3群(チラシ投函/収集終了の看板/対策なし)に分けて不法投棄率を比較した事例が紹介されました。結果として、看板による効果は一時的には見られたものの持続力が無く、品目によってはチラシの投函の方が不法投棄の抑制効果が高かったという結果でした。
この事例が示したのは、「やってみて、検証する」ことで施策の効き方と限界が同時に見えてくる、というEBPMの本質です。単なる成否判定ではなく、次の改善仮説に接続するための“可視化”こそがEBPMの価値だといえます。

自治体EBPMの4つの課題と「はじめの一歩」
意見交換で挙がった課題は、各団体で共通していました。
・行政評価の結果が計画・予算につながらない
・指標の定義が年度や所管で揺れ、分析が難しい
・住民アンケートを意思決定に生かし切れていない
・担当が少人数で分析時間が確保しにくい
これに対して、EBPMの「はじめの一歩」として提示されたのは、次の3点です。
・比較を設定する:前年度比/他市比/部局横断比のいずれかを明記する
・定義をそろえる:KPIの分子・分母・算出式・出所・更新頻度・担当を「指標定義表」に集約する
・仮説を書く:目的・対象・因果仮説・アウトカム・KPI・検証計画をロジックとして可視化する
これらはいずれもPBEMを避け、翌年度の説明責任を果たし、施策の精度を底上げする具体的な対応です。
総合計画・行政評価・予算を連動させるトータル・システムとは
講座企画の背景にあるねらいとして、日本生産性本部は、エビデンスを活用し、総合計画を核として予算編成・行政評価・組織管理・目標管理・人材育成といった行政組織のさまざまなマネジメントシステムを連動させることの重要性を提起しました。さらに、協働による地域課題の解決を促進するためにも、エビデンスが重要になっていることを指摘しました。
行政においても地域においても、EBPMという“作法”を具体的な仕組みに落とし込み、定着させていくことが求められているといえます。

日本生産性本部資料(関連ページ「日本版コミュニティ・エクセレンス)より
まとめ:完璧を待たず「はじめの一歩」を踏み出そう
この日、会場に見られたのは「完璧を待たず、誠実に前進する」という実務者の目線に立った合意でした。データの弱点は正直に書く。比較対象を必ず設定する。「まだ分からない」と明記し、検証計画を添える。現時点で高度な分析ができていなくても、政策の説得力を高めていくことは可能です。
EBPMは“特別な誰か”だけのものではありません。現場が「はじめの一歩」を踏み出した瞬間から、組織は変わり始めるのではないでしょうか。
“見えないふりをしていては、何もかわらない・・・。
限界・問題に向き合い、着実に前進を!”
―― 西出教授講演資料より
自治体マネジメントセンターでは、地方自治体の経営の質を高めるために、総合計画の策定支援をはじめとするさまざまなソリューション提供や自治体経営に関する調査研究・提言を実施しています。
執筆者:公益財団法人日本生産性本部 自治体マネジメントセンター 主任研究員 田中 優磨