優秀賞 Smart Eye Camera(スマート アイ カメラ)

スマートフォンアタッチメント型医療機器「Smart Eye Camera(スマート アイ カメラ)」を活用した遠隔診断モデルで、第5回日本サービス大賞優秀賞を受賞したOUI Inc.(ウイインク)の中山慎太郎COO(最高執行責任者)は、生産性新聞のインタビューに応じた。発展途上国と、日本及び欧米等の先進国の両輪でサービスを展開しながら、「世界の失明を50%減らし、眼から人々の健康を守る」使命の実現を目指す。

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途上国に眼科医療を
OUI Inc.は慶應義塾大学医学部発のベンチャー企業だ。眼科医で代表取締役の清水映輔氏が、所属するNPOの国際医療活動としてベトナムの農村で行っていた眼科診療のボランティアの経験から、2017年に手軽に持ち運べる検査機器のアイデアを考案したことが、現在の活動の原点になっている。
眼科の診察で最も基本となる検査機器の1つが「細隙灯顕微鏡(さいげきとうけんびきょう)」だ。専用の台に顎と額を乗せ、細い光を斜めから眼に当てながら拡大して観察する。白内障やドライアイ、角膜混濁、結膜炎などの疾患を調べることができる。
眼科には必ずある検査機器だが、大きく、重く、高価だ。清水氏が参加したベトナムの農村でのボランティア活動では、こうした検査機器が現地にないため、日本から運んで行った。しかしそれでは、ボランティアが訪問した時しか診察はできない。そんな中、現地のスタッフがスマホで眼を撮影しているのを見て、「スマホの光を眼科の診断に必要な光に変えることができたら」と思いついた。
スマホに装着する「スマート アイ カメラ」が高価であれば、遠隔診断を途上国に広めることは難しい。低コストで製造するため、3Dプリンタを活用することを考え、エンジニアにアイデアを説明した。そして、1年半かけて、簡単に持ち運べる検査機器を開発した。

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「突撃隊」として依頼
2019年、完成した「スマート アイ カメラ」を使って、日本のみならず世界の眼科医・非眼科医・医療関係者と力を合わせて、眼科医にアクセスできない患者に眼科医療を届けるモデルを世界中に広げる取り組みが始まった。
清水氏が眼科関係で論文を発表している国内外の研究者らにメールを送ったところ、最初に興味を示してくれたのがアフリカ・マラウイ共和国の眼科医だった。しかし、眼科医としての臨床活動も継続し、日々多くの患者を抱えている清水氏自らが、長期間診察を休むわけにはいかない。そこで、現地へ飛び、コーディネートできる「突撃隊」として、途上国での国際協力の経験が豊富な中山氏に白羽の矢が立った。 「スマート アイ カメラを様々な国に持ち込み、どのように使えるのかを現場の眼科医と相談しながら、遠隔医療のモデル構築を進めて欲しい」と清水氏から頼まれ、快諾した。
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見えないものに光当てる
マラウイ共和国では、人口1,800万人に対して眼科医は14人しかいない。清水氏にメールを返信したマラウイの眼科医と連携し、農村部で「スマート アイ カメラ」を実証すると、患者の反応も良く、その医師からも前向きな反応を得た。
中山氏は「マラウイの先生との出会いは、個人的にも大きな転機になった」と語る。中山氏はそれまでにも開発援助で多くの途上国を訪れていたが、眼科医療のアクセスがない人たちの課題については知らなかった。そんな中山氏に、マラウイの眼科医は自らの経験を話してくれた。彼自身もマラウイの農村出身で、大学の医学部を卒業したあと、英国など海外でも医学を学んだ。その後、故郷に帰って、眼科の診察をすると言ったら、翌日に1,000人の患者が列を作っていたという。
中山氏は「眼が見えなくなるのは『仕方がない』とあきらめているだけで、本当はチャンスがあれば治療したいと思っている人はたくさんいる。見えているものだけを見ていたら、本質は分からない。課題を解決するには、見えないものに光を当てることが重要だ」と痛感した。
その後、ブータンやブラジルにも足を運び、「スマート アイ カメラ」を使った遠隔診断のモデルを検討した。ブータンでは、学校の先生が「スマート アイ カメラ」で子どもたちの眼を撮影し、遠隔診断する「学校検診」を実践した。ブラジルの奥地で生活する先住民の集落に眼科医療を届けるプロジェクトでは、通信環境が乏しいため、衛星インターネット通信「スターリンク」も活用し、リアルタイムで遠隔医療を実現する仕組みを、現地パートナーと一緒に構築した。
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価値ある事業の好循環を
OUI Inc.のもう1つの使命は、この遠隔診断のモデルをビジネスとして成り立たせることだ。「途上国での活動を続けていくためには資金が必要になる。本当に困っている患者さんはお金を持っていないことも多い。そのため、途上国だけでなく、先進国でも活動を行い、マネタイズできるところで活動を持続的に行うための資金を獲得していく必要がある」。
途上国での経験を通じて構築した遠隔診断モデルは日本国内の過疎地や離島でも展開されている。また、医療機関向け眼科遠隔読影サービス「プラス・アイ・ドクター」や、訪問型企業検診「モバイルアイスキャン」などのサービスも提供している。AIによる診断支援のソリューションも開発中で、海外では先行して実証しているケースもある。
OUI Inc.の事業が壁にぶち当たった時、清水代表は「どうしたら患者さんを救えるかを一番大切にしよう」と話すことがある。中山氏も、その考え方に共感し、「それをぶらさずに活動できるのがOUI Inc.で働く醍醐味の1つ」と語る。
中山氏は「途上国でも、先進国でも、日本でも、海外でも、都市部でも、地方でも、どこでも誰でも困っている人がいたら、そこに届けられるサービスにしたい。価値あるサービスで利益を生み出し、OUI Inc.が発展することで、さらに価値あるサービスを世界中に届ける、という好循環をつくりたい」と意欲を示している。

OUI Inc.最高執行責任者(COO)。一橋大学法学部卒業。国際協力銀行、国際協力機構、三菱商事、クロスフィールズを経て、2019年よりOUI Inc.に参画。2019年ラグビーワールドカップのアルゼンチン代表帯同通訳。日本語・英語・スペイン語・フランス語のクワトロリンガル。慶應義塾大学医学部眼科学教室研究員。
生産性新聞2026年9月15日号:「サービスイノベーションの挑戦第14回」掲載分
登場人物の所属・役職は新聞掲載時のものです。